しかし、犬の入った箱を移動させ終えたにも関わらず、
私はすぐにはその場を立ち去ることが出来ずに立っていた。
箱の中に残された一匹の子犬。
私がここを立ち去った後、
この犬に待っている不運な未来は容易に予想できる。
明日の朝、雨上がりにビルの所有者が、
箱に入った子犬の死骸を発見して、
保健所に電話するのだろう。
自分の下唇をかんだ。
この犬の明日を思って。
そう。こんなのはきっと優しさではない。
私のエゴだ。
そんなこと知っている。
でも、私は家に帰らないと。
雨がもっと酷くなって風が強くなる前に、
私は家に帰らないといけない。