【another side 】
校舎の屋上からグラウンドを眺めていた。
眼下に広がる光景はまるで、ジオラマ模型のようだ。
ざわざわと賑わうグラウンドに
乾いたピストルの音が響く。
音と同時に、旗の周りに丸く渦を巻く2つの人の群れ。体育大会の最後は今年も「 棒上旗取」だ。
一方の群れが、もう一方の群れに向かって隊列を組んで、棒の上に刺さった旗を奪おうと全速力で駆け出している。
それはまるで2匹の大蛇のように勢いよく、
二つの人の群れは、うねりを上げた。
二つの群れが相見える刹那、
小さな水滴が俺の額にポツリと落ちてきた。
思わず俺は、グラウンドから目を離して空を見上げた。
空は今朝の天気予報に反して、重たい黒い雲に覆われていた。
俺は相当な雨男だ。いつだって何かがある時、雨が降るのだ。
北斗軒との出会ったあの時も、カイトと初めて話したあの日も。全部雨だった。
雨との不思議な縁を感じながらも、成功を確信した。
俺の眼下に広がるグラウンドで和太鼓の太い音が鳴り響いた。
一人の英雄が旗を掲げたのだ。そして、ポケットのスマホが震えた。
「良かった。ちゃんと聞こえた?」
成功の知らせに、安堵の息がもれた。これで一つ問題が解決した。
「うん。次、次は通るころに、うん。よろしく」
「そこは自分で考えてよ」
「じゃ、よろしく」
スマホをポケットに戻すと、冷たく湿った風が頬をかすめた。