[akari side]




「頼れ」だなんて…。
昨日知り合ったばかりの私にそんなことだけを言いに、後藤魁人はわざわざこんな所にまで来たのだろうか。

今起きたことを考えながら、生えっぱなしの雑草が風に揺られるのをぼうっと見つめていた。


このままずっと、ここにいても誰も私のことも探さないだろう。

クラスメイトに絡まれるのは面倒だし、ここでいつもみたいに、音楽を聴いて時間を潰すのもいいかもしれない。


ポケットを探ろうとした時、スマホをカバンに入れっぱなしにしていたことに気づいた。

ついてないなぁ。

なんて心の中で呟いて、私は1人グランドへと歩いた。


来賓席の後ろを通りかかった時、アナウンスが聞こえた。次は有志のダンスらしい。


今朝クラスメイトが言っていたことをふと思い出し、体育委員の生徒に紛れグランドが見渡せるテントの中に入った。



すると、音楽が鳴り、青い衣装を着た女の子たちが走って列になり立っていた。佐倉咲は一向に表れない。


遅れて体操服の生徒が1人、急いで列に加わった。


「見てお母さん、あの子。一人だけ体操服だよ」


私の前の席に座っている小さな女の子の素直な声が高らかに聞こえる。


音楽は校舎と周りの建物でやまびこのように反響していた。

堂々とした笑顔の佐倉咲の様子に、きっとこれには何か理由があるはずだと、その場にいる保護者たちは固唾を呑むように見ていた。



しかし、結局は最後まで彼女だけが体操服である理由を知る時は訪れなかった。

音楽は終わり、彼女たちは校庭から去っていく。



何があったんだろう。



もと居た場所に戻ろうとすると、
一年生の学年の先生と私の担任が
二人で話しながら通りかかった。


「佐倉さん、どうしたんでしょう?」
「分からないです」
「困りますね。保護者が見ている時に問題があると」


二人が話し声を聴こえたその時、
担任の方と目があった。


注意される前に自分の居場所へと逃げるように戻った。