[akari side]



「ねぇ、このプログラム何だと思う?
去年なかったよね」


晴とも曇りとも言えない空の下で響くピストルの音と同時に、私の背後で例の話が始まった。


「分かんない」
「1年の有志がダンスやるんだって」


噂話はいつどこにいても始まる。
例え噂に疎くても、時々それは聞こえてしまうもので…



「へぇ、今年の1年はやる気満々だね」
「ほらあの子、佐倉咲って名前の子。」

聞き馴染みのある名前にドキリとした。

「ああ佐倉咲、あの子かわいいよね」
「男の子からモテてそうだよねー」
「ねーかわいいもんね。普通に羨ましい」


佐倉咲への素直な賞賛の言葉が少しだけうれしい。

「あの子がリーダーになってやってんだって」
「そうなんだ。すごーい」

佐倉咲がクラスで上手くやるタイプだと、会った時から何となく分かっていた。噂を隠れ蓑にする私とは違う人種だと。

だけど、そんな彼女の噂が回るとき。
それは私のよりも酷いことが起こるだろうことは分かっている。

噂に女の嫉妬が混じった時、噂と言う生き物は大きく大きく成長し、その毒牙も強くなる。だから、内心私はひやひやしていた。



前半の競技は80メートル走で、誰が走っているのかさえ見えないからか、盛り上がりはいまいちで、流れ作業のように同じことを繰り返していた。

ゴールで旗を上げるとピストルが鳴り、人が走っていく。私の周りに座る女子たちは、日焼け止めを塗ったり日傘をさしたりしていた。


それに乗じて私も長そでのジャージを上下にきて日傘をさしていた。


「ねぇ、知ってる?」
「何?新しい噂?」

「うん。ちょっと耳かして」

くすくすと笑いが漏れる、意地の悪い声。

きっと私か田中君の噂がもう一つ増えたんだと
心の中で溜息をついた。

「シンデレラ?何それ」
「一年生の…ほら!あのダンスのリーダーの子」

「え。あの子が?何それさっぶ」
「あーでもわかるわ。モテそうだもん」

「今それ言うの悪意あるわ」

その言葉を引き金にその場で話していた女子たちがくすくすと笑った。

じりじりと感じる居づらい感覚に。
その場から立ち去ろうと立ち上がった。

「田中さん。あ、違った。中村さん」

振り返るとわざとらしく笑う女の顔があった。
取り巻きの女たちは「失礼だよー」と言いながらも意地悪な笑みを語尾に混ぜていた。

この感じ、二年になってからは久しぶりだ。

「何?」

私を呼んだ女子の取り巻きがくすくすと笑う。


「田中君。いないんだけど、どこにいるか知ってる?」

取り巻きの一人が聞いて初めて、私は男子が集まっている席に目をやった。

田中君の姿は見当たらない。


「知らない」


そう言い捨てて行こうと背を向けると。