我慢をするのは得意だ。
昔から、「特技は?」と聞かれたら「我慢すること」と答えていた。それくらい我慢することには誰にも負けない自信があった。
欲しいおもちゃがあっても、食べたいお菓子やアイスがあっても、着てみたい洋服があっても、習いたい習い事があっても、どんな欲も抑えられた。
だから母親に三度目の離婚を告げられた時にも、正直「またか」とは思ったが何も言わなかった。ただ頷いて、何も感じていないかのように振る舞った。
でも、その日の夜は不思議なことに涙が止まらなかった。母親の前ではいい笑顔を作れたし、いつもどおりの私を演じられたのに。初めての失敗だった。一人になった瞬間、気がつくと両眼から涙が溢れていた。我慢は私の特技なのに。気持ちが抑えられなくなるなんて。
当時十歳だった私は二つのことを学んだ。
一つは、人は悲しい時、涙が止まらなくなるのだということ。
そしてもう一つは、永遠の愛なんて存在しないのだということ。