社宅は社長の家の2階でした【佳作受賞】

「え? なんでですか?」

のどか、驚くと目がまん丸になるとこ、変わってないなぁ。

「だって、隣にこんな美人秘書がずっと
付いてるんだよ?
寄って来れないでしょ?」

「へ?」

「へ?って。」

のどかの素の反応が出るのが、嬉しい。
笑いが込み上げて、自分でも顔が綻ぶのが分かる。

「じゃ、重い物とか、手伝いがいる時は、声
掛けて。
俺、今日は一日ここで仕事してるから。」

「え!? もしかして、お仕事があるのに私の
ために持ち帰られたんですか?」

のどかが申し訳なさそうな顔をする。

「あ? ああ、違う、違う。
俺、寝てる時以外は大抵、仕事してるから。
ま、だから、いつも振られるんだけどね。」

のどかが心配する事じゃない。
俺が勝手にしてる事。
のどかは、お願いだから、笑ってて。

のどかが、飲み終えたカップを片付けてくれる。

「いいよ。そんなの、あとで俺がやるから。」

「いえ、これくらいは。」

そう言って食器を綺麗に洗っていってくれた。

そうか。
のどかはもう、俺が何でもやってやらなくても、ちゃんとできる大人なんだよな。