初陣の後、功績を挙げた魏冄はその家柄も相俟って破格の出世を遂げていった。
特に魏冄が他の貴族たちと比べて秀でていたのが戦の腕である。
魏冄はその後も戦功を挙げていき、その事と家柄を武器に皇室内の権力争いを勝ち抜いていった。

勿論、そんな魏冄の功績と、白起の才能は無関係ではない。
むしろ、魏冄が本当に優れていた点は白起という男の才能を理解し、徹底的に利用した点にあるといえる。
そんな中、韓と魏という秦と対立する小国が同盟を結び秦と戦争をする事となった。

魏冄は軍議において言った。
「今回の戦も私にお任せ下さい。私と白起で必ずや韓・魏を滅ぼして見せましょう」

しかし、王は首を横に振った。
「ならぬ。お主は良いが、白起は異人であるぞ。いつこちらに弓を引くかも知れぬ男を信用など出来ん。」

すると魏冄と対立する貴族の一人である向寿という者が名乗りを挙げた。
「王よ。では私にお任せ下さい」

「それは良い」

「向寿様はあの異人に比べるのも失礼なほど、素晴らしいお方だ。この戦の勝利は間違いないだろう」

向寿の発言を聞くと人々は口々に賞賛を述べた。
向寿は家柄、容姿、品行、全てにおいて優れており王の寵愛を受けていたためである。
しかし、多くの経験を積んできた王は韓魏が難敵であり向寿が軍を率いては勝ち目の無い事も分かっていた。

そこで魏冄に言った。
「魏冄。あの異人に先陣を務めさせよ。異人でも先人くらいは務まるだろう。」

それを聞いて魏冄は顔をしかめた。
「それは白起に汚れ仕事をさせて、手柄は向寿に譲れという事ですか」

魏冄の無礼な態度に王は驚き、同時に怒り言った。
「貴様。わしの命令に逆らうのか」

しかし、魏冄は動じなかった。
「私は白起の上官ですが同時に友です。私はその責任において、命に代えても白起を守ります」

それを聞くと王はますます、怒りを増し魏冄を処罰するよう命じようとした。
しかし、向寿がそれをとめた。

「王よ。どうか全て私にご命令下さい。異人の力など借りずとも手柄を上げて見せます。」

王はその言葉を聞くと冷静さを取り戻した。
そして真っ直ぐ向寿を見た。

向寿は王の目から見ても立派な見た目であり、異人である白起や、どこか信用できない見た目をしている魏冄と比べてもしっかりして見えた。
そこで、王は言った。

「分かった。全てお前に任せる。」

それを見て魏冄は思った。

(少し熱くなりすぎたな。危うく殺されるところだった。向寿の無知に救われたか。)

そして王の目に触れないようにこっそりと軍議を立ち去ったのだった。