『ほのか。みんなにいい人って思われなくてもいいんだぞ。お前が大事にしたい人のために、誠実でいたらそれでいいんだ』

 前触れもなくあまりにも唐突に言い捨て、父はその場をさっさと去っていた。私は意味がわからず、しばらくぽかーんと口を開けたままだった。

 そっか。父は父なりに私を気遣ってくれていたんだ。嫌われていたわけでもなくて、私だって自分から父に歩み寄ろうとしなかった。

 どちらも受け身なら、関係は進まない。やっぱり私たちは親子で似た者同士なんだ。

 結論付けてようやく私は笑えた。ずっと長い間、遠回りしていたんだ。

 さらに父の弁明によると、地球が終わりそうだからとはいえ、元々仕事人間だったのもあり今さら娘とどう接していいのかずっと悩んでいたのだという。

 基本的に家にいる私に安堵していたそうで、だから今日、谷口商店で私を見かけ驚きと外にいることで強く当たってしまったんだとか。

「ほのかまでいなくなってたら、父さんはきっと今、生きていない。ごめんな。父さんも自分のことでせいいっぱいでほのかの気持ちを汲んでやれなくて」

 涙で顔がぐちゃぐちゃだ。私は大袈裟に首を左右に振る。

 思い出した。私が勉強を頑張りだしたのも、小学生のとき普段無口な父が『ほのかは頭がいいんだな』と成績を褒めてくれたからだ。

「……お父さん、私が生まれたとき嬉しかった?」

「嬉しかったよ。ほのかとまなかが生まれたときが、生きてて一番幸せだと思った」

 そう言って父はハンカチを差し出してくれた。真っ白の綺麗なハンカチだ。申し訳なく思いつつ私は遠慮なく受け取ると、顔に押し当てて涙を拭った。