「そんな運命の相手をおいて、アメリカに行くの?」

 さすがに宇宙に、とは言えなかった。けれど私のひねくれた問いに彼から素早く返事がある。

「そうだね。でも必ず帰って来る」

 さらっと紡がれた言葉に、私は目を丸くする。

「帰って来るから。そのときに今取っておいた言葉を必ずほのかに伝えるから」

 穂高は私から目を逸らさずに告げた。瞳の奥には彼の意志の強さが宿っている。

「だから待ってて」

 小さく頷き、私はわざとおどけたトーンで返した。

「早くしてね。地球が滅びるときひとりなんて嫌だよ」

「あれ? 地球は助かるんだろ?」

 思わぬ切り返しに言葉を失う。その間に、彼は私のおでこに自分の額を重ねた。

「約束する。ほのかをひとりになんてさせない。誓うよ」

 彼の茶色がかった目に映る自分の姿を見つける。いつのまにか太陽が姿を現していた。また今日が始まる。

 空は青に染まり、波の音が静かに私たちを包み込む。地球ができた頃からこの波はずっと寄せては返してを繰り返してきたのだろうか。

 泣きそうになる自分を引き締め、私は声を振り絞って彼にお願いした。

「じゃぁ、わかるようにちゃんとここで誓って」

 一瞬の間があり、意味を読み取った穂高の顔が切なそうに歪む。彼の骨ばった左手がおでこを滑り前髪を掻き上げると、そこにキスが落とされる。

 柔らかい唇の感触を受け彼を見上げると、今度は彼の手が頬に添えられた。骨ばった手は大きくて温かい。……安心する。

 そして、ゆっくりと彼の顔が近づいてきたので静かに目を閉じると唇が重ねられた。

 初めてなのに、もうずっと前から、まるでそれが当たり前だったかのようなキスだった。

「またね、ほのか」

 穏やかな笑顔と心を落ち着かせる声。しっかり目に焼き付けておきたいのに視界がぼやける。それでも私は笑った。

「うん。バイバイまたね」

 こうして穂高は私の前からいなくなった。