元来俺は
『恋愛なんてくだらない、暇な奴がすればいい』
と思っていた。

 中学時代「香取くんカッコいい!」なんて女子たちが言ってたのも知ってるけれど、全く興味がなかった。


 それが高校に入って、星宮にいつしか惹かれていた。

 お人好しで、素直で、少し抜けてて。
 そのくせ正義感が強くて、誰にでも優しくて。


 だけど彼女には好きな男がいた。

 誰だかは知らない。
 でも、頬を紅く染めて、『ソイツ』のことを友達に話す星宮を見た時、

(俺の入れる隙間はないな)

と思った。


 その瞬間にひっそり失恋して諦めたら良かったんだ。

 なのにそれは傷付くこと以上に苦しくて…


 そして俺は偽の噂を逆手に取って、上手いこと騙して星宮に近付いた。


 けれど、そんな星宮だから傍にいれば当然ますます惹かれてしまうわけで。

 俺のことを意識させたい、と思って近付いたのに、気付いたら俺の方が更に星宮に夢中になっていた。
 昼も夜も星宮のことばかりが頭を巡って、幸せで、且つ、不安になる。

 恋というものは底無し沼に似た魔物だということを知った。


 そんな俺の苦悩も知らず、星宮は今日も
『おはよう香取くん』
なんて屈託なく俺に微笑む。

 そしてその度にこんなにも純粋な君を騙したことに胸が痛むんだ─


       *