「着いた……」


私は、彼の家の玄関前に来ていた。


私たちは同じマンションで隣同士。


私が三○一号室で、彼の家は、三○二号室。


それだから、昔から家族ぐるみで仲がよかった。


そんな彼の家に訪問するのは、実はかなり久しぶりだったりする。


しかも今日は、遊びに来たわけではない。


想いを伝えに来たんだ……。


緊張で、手が震える。


インターホンに手を伸ばしてみるけど、なかなかボタンが押せない。


そのとき──。


「彩?どうした?」


愛しい人の声が、聞こえた。


声のするほうを振り向くと、彼はいつものように笑って立っていた。


その姿をみて、思わず泣きそうになる私。


だけど、ここで泣いてしまったらダメだ。


そう思い直した私は、必死で涙を堪えて、彼と目を合わせる。