天満つる明けの明星を君に【完】

天満も雛菊も目を白黒させて朔を凝視していた。

両者に見つめられた朔はゆっくり茶を飲み干した後、天満の手からくしゃくしゃになった文をさっと奪い取って雛菊に手渡した。


「読んでみろ」


「えっと……‟雛菊は旦那と離縁させた後、鬼頭家長男の元に嫁ぐように”って……えっ!?」


「うん、天満を騙すための冗談なんだけど、ごめん」


「冗談!?朔兄、どういうことですか!?僕すっ飛ばして帰って来たのに!」


「お前がいつまで経ってもそうやってうじうじして戻って来ないから俺が発破をかけたんじゃないか。ありがたく思え」


――必殺の俺様戦法。

へなへなと腰が砕けた天満は、髪をくしゃくしゃかき混ぜて深いため息をついた。


「おかげで戻って来ましたよ…」


「天満…お前血の匂いがすごいぞ。風呂に入って来い。ていうか入りに行こう」


「朔兄…もしかして僕を心配しているふりをして実は風呂に入りたいだけじゃ…」


にっこり笑顔で首根っこを掴まれた天満が攫われるようにして風呂場に連れて行かれると、残った雛菊はやっぱり状況がよく分からずまごまごしていた。


「あの…」


「あー、あれは大丈夫だ。じゃれてるだけだから」


「あ、あの…つまり私が主さまの元に嫁ぐっていうこと…」


「ん、天満を連れ戻すための嘘だから安心しろ。ところで雛菊、旦那はどこ行った?会いに行ったんだけど結局会えなかった」


「…旦那様はよく外出されるので」


ふうん、と相槌を打った雪男は、ごろんと寝そべって雪男にとっては快適な外気にあたって目を閉じながら笑った。


「天満はお買い得物件だぜ。お前が天満に気があるのなら主さまが動いてくれる。気持ちの整理つけとけよ」


「え…」


――つまり駿河と別れることができる?

淡い期待に緊張して息が上がりそうになった。