天満つる明けの明星を君に【完】

「俺はそこそこだけど、天満はからっきしだな」


「おかしいですよね?天満様ほど優しくておきれいだったら世の女なんてみんな…」


「お前もその‟みんな”に含まれているという解釈でいいんだな?」


頬杖をつきつつ、じいっ。

心を透かされた雛菊は、言い逃れのできない状況に拳を握り締めながら唇を噛み締めた。


「私には旦那様が…」


「お前に選択肢はなかったと俺は考えてる。…雛菊、知っているか?お前の父が死んだ原因を」


「?いえ…父は病で…」


「妖が簡単に病に罹るか?誰かに何かを盛られたんじゃないのか?」


「……え…っ?」


――急に身震いが起きた雛菊は、目をぶるぶるさせながらようやく朔をまっすぐ見据えた。

…確かに父は突然倒れて、そのまま意識を取り戻すことなく死んでしまった。

てっきり何かの病だと思っていたのに――違うのか?


「…ん、戻って来たな」


「ああ、この気配はそうだ。主さま、あんまり叱んなよ」


「お前は天満に甘い。いや、まあ俺もそうか」


雛菊が首を傾げていると――ものすごい勢いで玄関の戸が開く音がした。

腰を上げようとした雛菊を朔が少し手を挙げて制すると――どたばた廊下を走る音がして、足音の主が息を切らしながら居間に駆け込んできた。


「朔兄!」


「遅かったな。もうすぐ帰る所だった」


「だ、駄目ですからね!絶対!」


「?天満様…?」


はあはあと息を切らしながらも天満の手にはくしゃくしゃになった文が握られていた。

だが朔はどこ吹く風でしれっとしていて、さっと隣に座った天満は朔の肩をがくがく揺さぶった。


「駄目!絶対!」


「うん、まあちょっと落ち着け。雛菊が驚いてる」


はっとした天満は、茫然としている雛菊と目が合うと、急にしおらしくなって正座して頭を下げた。


「雛ちゃん…戻って来なくてごめんなさい。でも絶対行かないで下さい…」


「?私が?どこへ?」


きょとん。

朔と雪男が吹き出した。


「事情を説明するからみんな落ち着け。すまないが芝居を打たせてもらった」


ますますきょとん。

朔はずっとくすくす笑っていた。