天満つる明けの明星を君に【完】

緊張しながら料理を作り、緊張しながら朔たちの前に並べた雛菊は、目を丸くして料理の品々を見ている朔に恐る恐る声をかけた。


「お口に合うといいんですけど…」


「全部お前が作ったのか?すごいな」


「息吹が作ったことない感じの料理もあるぜ。美味そう」


すでに箸を手にしていた朔が煮魚を食べると、しばらくの間、もぐもぐ。

天満もそうだが朔たち兄弟は口に物が入っている間は一切話さず、ひたすらよく噛んでもぐもぐする。


緊張してそれを忘れていた雛菊はうっかりして朔に話しかけてしまった。


「美味しい…ですか?」


「…」


返事はない。

だが真向かいに座った朔がもぐもぐしつつひたすら見つめてきたため、天満を超える美貌の主に直視されてしまった雛菊は、俯いて顔を上げることができなくなった。


「美味い。妖で料理ができる者なんてそう居ないぞ」


「小さい頃息吹さんが作ってくれた料理を食べた時感激したんです。それから作るようになったんですけど、旦那様は食べてくれなくて」


「ふうん、もったいない。雪男、もたもたしていると俺が全部食うぞ」


「待て待て!」


兄弟揃って、大食漢。

気持ち良い位に次々と料理を平らげてくれる朔が天満と重なり、つい小さなため息をついてしまった。

すると朔がもぐもぐしながらまた見つめてきたため、真っ赤になったり真っ青になったり忙しなくしつつ、ふと疑問に思ったことを訊いた。


「あの、食べてからでいいんですけどひとつ訊いてもいいですか?」


朔がこくんと頷くと、雛菊は真剣な顔をして――腰を浮かした。


「主さまはやっぱり…女遊びしてますよね?」


「ぶはっ!」


雪男が吹き出した。

朔は雪男を睨みつつごくんと飲み込んで、否定も肯定もせず首を傾げた。


「なんでそんな質問を?」


「だって天満様は…その…全然…その…主さまはそんなにおきれいな顔をしてるんだから、遊んでるのかなって…」」


ぴんときた。

天満の事情を知っていると分かると、箸を置いて机に頬杖をつき、にっこり。


もう逃すつもりはなかった。