天満つる明けの明星を君に【完】

朔が鬼陸奥に現れたことはすぐに知られることとなり、朔たちを伴って宿屋を出た雛菊は、あまりにも目立つ二人組と往来を歩くことにひどく気が散って顔を上げることができなかった。


「あ、あの…肩を…その…」


朔がまだ雛菊の肩を抱いていたため、それをか細い声で指摘すると、朔はゆっくり手を離して無邪気に笑った。


「他意はない。こんなところを見られたら旦那に暴力でも振るわれるところだったか?」


「!あの…どうして…そんなことを…?」


「助けを求めてきただろう?それには理由がふたつある。ひとつは今の件だ。ここじゃ衆目があるから早くここを抜けようか」


朔が口笛を吹くと、どこからか声がして、巨体が降ってきた。


「にゃぁーーっ!」


どすんと音を立てて目の前に現れたのは、縞々の虎柄で尻尾が何本もある猫又だった。

雛菊が目を丸くしていると、雪男が雛菊の脇をさっと抱えて猫又の背に跨らせた。

続いて朔がひらりとその背に乗り込むと、肩越しに振り返ってにっこり。


「俺に捕まるか、雪男に支えられるか、好きな方を選べ。飛ばすから少し揺れるかも」


「え、えぇっ!?」


返事をする間もなく猫又がぴょんと飛び跳ねて疾走開始。

反射的に朔の身体にしがみついた雛菊は、その細さに驚くと共に、天満にそっくりな身体つきに思わず涙が滲んでぎゅっと目を閉じた。


そしてあっという間に最奥にある天満の家に着くと、雪男に下ろされた雛菊は鍵を使って家の中に入った。


「後で追加の食糧が届くけど、天満はちゃんと食事してる?」


「あ、はい、私が作ったり、時々天満様が作ってくれたり…」


「ふうん、それはいいな。俺も腹が減った気がする」


「俺も」


…朔も雪男も本来腹が減るはずはないのだが、日頃息吹が食事を作ってくれるため腹が減る気がするだけ。

ふたりにじいっと見つめられた雛菊は慌てふためいて外の氷室に向かった。


「こんな夫婦同然の暮らしをしてたら天満もぐっと心が傾くだろうな」


「あいつ免疫ないからな」


好き勝手言って勝手に家に上がり込んで寛いだ。