天満つる明けの明星を君に【完】

夫の居る身だが、あの夫を心から愛することはできなかった。

嫁にと強く望まれて、父が死んで不安だったところを優しくされて嫁いだものの、最初は幸せだったが――徐々に独占欲をむき出しにして、少しでも男の客と話し込もうものなら激しく嫉妬して容赦なく責め立てられることが多くなり、身籠った子も流れ続けてどんどん肩身が狭くなっていった。


そんな時、天満のことをよく思い出していた。

あのあたたかい家族を持ちたくて頑張ったが、どうやら自分には手の届かない夢らしい。


「天満様…よ、酔ってるんでしょ?」


「…そうだね、酔ってるのかも。だって僕は知識こそあれど経験はないからね。頭の中で雛ちゃんをこうしたい、ああしたいって思ってても実行はできない小心者なんだよ」


「…」


まだ抱きしめられていた雛菊は、顔を上げて天満の美しすぎる美貌を間近に見て、その唇に指で触れた。

本当に酔っているのならば――きっと自分が今からしようとしていることは、明日には忘れているだろう。


「頭の中で私をどうしようとしているの…?」


「そうだなあ…到達地点にしていた口と口がくっつくとか?もっと先はすみません、僕にはまだ早すぎるかも」


天満がため息をついた。

その切ない表情にもう堪えられなくなった雛菊は――天満の唇に唇をそっと重ねた。

一瞬天満の身体が硬直したがそのままじっとしていると、強く唇を押し付けてきて目を閉じた。


経験がないというのは本当で、飯事のように幼いものだったが、逆に火がついた雛菊は、自ら舌を差し込んでさらに天満を硬直させた。


「雛ちゃ…」


「明日にはきっと忘れてる。天満様…口付けにもいろいろ種類があるんだよ。私が…教えてあげる」


――天満はそれに応えて舌を絡めた。

頭の回転が速くすぐに要領を覚えた天満は、酒の勢いに任せて荒ぶりを隠せなかった。


「天満様…」


ぞわり。

愛しさを込めて真名を呼ばれて、さらに深く唇を重ねた。


…本当はほとんど酔ってなんかいない。

だが雛菊が明日には忘れていてほしいと思っているのならば――忘れているふりをしようと思った。


「気持ち…いいね」


「うん…気持ちいい…」


何度も何度も唇を重ねて、酔いしれた。