天満つる明けの明星を君に【完】

雛菊が文を整理してくれた順番で、討伐を開始した。

都から距離がある地域を中心に、天満はその手腕を遺憾なく発揮して、人に仇為す妖を討伐していった。

そうしているうちに内に秘められていた戦闘本能が刺激されて、二振りの刀との連携も飛躍的に取れるようになっていた。


「天満様、お帰りなさい。先にお風呂に入って来て下さい」


「うん、暑い暑い」


玄関で出迎えた雛菊は、すれ違いざま天満から血の匂いがして、彼の宿命をほんの少し同情した。

同じ妖が妖を討たねばならない家業を生業に、妖から狙われなければならない身が心配で仕方なくて、長い風呂から戻って来た天満が居間に入ってくると同時にさっと膳を用意した。


「ありがとう。今日のご飯も美味しそうだね」


「天満様…お疲れでしょう?食べたら早く寝てね。だって今回遠出したでしょ?あ、そうだ、身体ほぐしてあげる」


「あ、それはありがたいかも。ちょっと肩が凝ってて」


雛菊が用意してくれた朝餉をゆっくり食べた天満は、きっちり雨戸を閉めてくれて寒い空気が室内に入ってこないようにしてくれた雛菊にぺこりと頭を下げた。


「いつも本当に助かってるよ。雛ちゃん、ちょっと腕を見せて」


「え…うん」


すまし汁を飲んだ後、差し出された雛菊の両腕を握って痣がないか調べた天満は、ここ最近駿河に暴力を振るわれていないことを確認して満面の笑みを見せた。


「最近何もされてないみたいだね」


「うん。…旦那様は忙しくて帰って来ない時もあるから」


「そうなの?どこに行ってるの?」


「…食べた?じゃあ横になってね、背中を揉んであげる」


なんだかはぐらかされてしまったが、無理には問い質さない。

酒をくいっと煽った天満は、膳を脇に置いてうつ伏せになった。


…正直少し疲れていて、雛菊が背中を揉んでくれるのが気持ち良くて、うとうとしてしまった。