翌日、天満から文が届いた朔は、それをじっくり読みながら…にやついていた。

どうやら天満に心境の変化があったらしく、それは朔にとって歓迎すべきことだったからだ。


「なーににやついてんだ」


「いや、だって天満が…」


笑いを堪えながら文を雪男に手渡した朔は、腕を組んで考えていた。

…雛菊は夫が居るが、あの夫はすでに破綻している。

恐らくまだ天満は気付いていないだろう秘密を抱えており、天満がそれをどう処理するか――

幼い頃一度しか会ったことのない雛菊だが、予想が当たるならば、あのふたりは…


「へえ、天満よくやってんじゃん。山猫か」


「大したことない奴だが、ここから日高の方面は距離がある。だから天満に任せたのもあるけど、俺の本題はこの鬼陸奥にある」


「そんで?運よく雛菊が居たから天満を配置したってことか?」


「天満は引っ込み思案だからいい気付け薬になると思ったんだ。あわよくば雛菊と…なんでもない」


「いやでもそれって結構問題になるんじゃね?不貞…」


「元からして破綻した夫婦生活だったはずなんだ。父親が死んで独り身になって、独りで生きていくのは難しかったところをあの駿河という男が嫁にと望んで嫁入りしたから、雛菊に選択肢はなかった」


雪男は縁側に座っていた朔の隣に座ると、きれいな天満の字にまた目を落とした。


「で?主さまは何かしてやるのか?」


「特に何も。助力を求められれば助けるけど、あれは肝が据わっているから大丈夫だろう」


「ふうん」


――天満の文からは雛菊を思い遣る感情が散りばめられていた。


あのふたりはきっと――


「俺はそうなればいいなと思ってる」


ぼそっと呟いて、小さく笑った。