海を渡ると、人里から離れた所に下りて山林に身を隠した。
天満の美貌はどうあがいても隠しようがなく、また雛菊も人の女にしてはかなり上物の部類に入る。
こんな片田舎に目立つ二人組がいては相手に勘付かれてしまうため、息を潜めながら人里に近付いて行った。
「雛ちゃん寒くない?もしかしたら夕暮れまでかかるかもしれないけど」
「天満様の羽織があったかいから大丈夫だよ」
「そっか。もうちょっと近付こう。朔兄の予想では…」
天満は落ち葉を踏みながら気を集中させて、おかしな気配がないか探っていた。
この付近にある人里はおよそ数十人が住む小さな村で、その近辺で人が連れ去られたり食べ散らかした形跡があったりしていると朔から報告があった。
「どんな妖なのかな…」
「見たらすぐ分かるよ。徒党を組んで人を襲う感じじゃないから単独だと思う。ただ短期間で沢山人を食べているからそろそろやばくなってくると思うんだ」
「やばくなるって…?」
雛菊が訊こうとした時――天満はさっと木の幹に隠れて雛菊を胸に抱きしめた。
身を隠すためだと分かっていてもどきっとした雛菊は、天満の身体から良い匂いがして目を閉じてじっとしていた。
「その荷物重そうだね。少し持ってあげようか?」
「あらあらご親切にありがとうございます。最近腰が痛くてねえ」
「身は少なそうだけど腹が減ってるからいいにゃ」
「え?」
「なんでもありませんよ。さあ荷物をこっちへ」
――顔や体が毛むくじゃらの男が人里に向かって道を歩いていた老婆に手を差し伸べて親切に荷物を持ってやろうとしていた。
だが話し方もおかしいし、何しろ――獣臭い。
「あれは…?」
「山猫だよ。猫が妖になって人を化かしたり食ったりするんだ。うちの屋敷にも猫又が居たけどちょっと種類が違うんだ」
何度も何度も舌なめずりをしながら老婆に媚びを売る山猫が人里に近付いて行く。
人里に入られてしまったら恐らく…殺戮が起こる。
山猫が発する妖気はすでに隠しようがなくどす黒く汚れた妖気に成り果てていたから。
天満の美貌はどうあがいても隠しようがなく、また雛菊も人の女にしてはかなり上物の部類に入る。
こんな片田舎に目立つ二人組がいては相手に勘付かれてしまうため、息を潜めながら人里に近付いて行った。
「雛ちゃん寒くない?もしかしたら夕暮れまでかかるかもしれないけど」
「天満様の羽織があったかいから大丈夫だよ」
「そっか。もうちょっと近付こう。朔兄の予想では…」
天満は落ち葉を踏みながら気を集中させて、おかしな気配がないか探っていた。
この付近にある人里はおよそ数十人が住む小さな村で、その近辺で人が連れ去られたり食べ散らかした形跡があったりしていると朔から報告があった。
「どんな妖なのかな…」
「見たらすぐ分かるよ。徒党を組んで人を襲う感じじゃないから単独だと思う。ただ短期間で沢山人を食べているからそろそろやばくなってくると思うんだ」
「やばくなるって…?」
雛菊が訊こうとした時――天満はさっと木の幹に隠れて雛菊を胸に抱きしめた。
身を隠すためだと分かっていてもどきっとした雛菊は、天満の身体から良い匂いがして目を閉じてじっとしていた。
「その荷物重そうだね。少し持ってあげようか?」
「あらあらご親切にありがとうございます。最近腰が痛くてねえ」
「身は少なそうだけど腹が減ってるからいいにゃ」
「え?」
「なんでもありませんよ。さあ荷物をこっちへ」
――顔や体が毛むくじゃらの男が人里に向かって道を歩いていた老婆に手を差し伸べて親切に荷物を持ってやろうとしていた。
だが話し方もおかしいし、何しろ――獣臭い。
「あれは…?」
「山猫だよ。猫が妖になって人を化かしたり食ったりするんだ。うちの屋敷にも猫又が居たけどちょっと種類が違うんだ」
何度も何度も舌なめずりをしながら老婆に媚びを売る山猫が人里に近付いて行く。
人里に入られてしまったら恐らく…殺戮が起こる。
山猫が発する妖気はすでに隠しようがなくどす黒く汚れた妖気に成り果てていたから。

