天満はよく食べる。

こんなに細身なのにどうなっているんだろう、と思いながら洗い物をした雛菊は、濃緑の着物に黒の帯といったいつもの天満なら着ないような暗い色の装いをしているのを見て首を傾げた。


「珍しい色の着てるね」


「あ、うん、返り血を浴びても目立たないように……ってこんな話いやだよね、ごめん」


「ううん大丈夫。もう行く?」


「うん、行こう。でも雛ちゃん、ひとつ問題があるんだ」


腰に二振りの刀を指した天満は、頬をかきながらやや困った表情ではにかんだ。


「乗り物がないから、こう…僕が抱える形になるんだけど…」


「…あ、そっか。私…重たいかも…」


「あははっ、それはないない。ちょっと飛ばして行くからぐ着くと思うけど、いい?」


「うん、いいよ」


上空は少し寒いため、天満は雛菊の痣が見えないように大きめの白い羽織を着せてやると、ふたりで草履を履いて庭に出た。


「じゃあ失礼します」


ひょいっと雛菊を抱え上げた天満は――面食らっていた。


ぐにゃぐにゃしていて、とても柔らかい。

落ちないとは分かっていても必死にしがみついてくる様もなんだか可愛らしく、天満はぶるぶる首を振って邪心を払った。


「天満様?」


「なんでもないよ、行こう」


とんと地面を蹴って空を駆け上がると、飛ぶ能力のない雛菊は慌ててまた天満にしがみついた。

みるみる景色が変わり、人が侵入しないように鬼陸奥全体を包んでいる結界を越えると、遥か前方に海が見えた。


「わ、きれい…」


「しっかり抱えてるから景色を楽しんでていいよ」


「うん」


そこでようやく顔を上げた雛菊は――すぐ間近に天満の唇があって息が止まった。

こんなに間近に天満を見たのは本当に久々で、相変わらずの透き通るような美貌に目が眩みそうになった。


「雛ちゃん?」


「あ、あのっ、空の上ってすごいね!風が気持ちいいね!」


わざとはしゃいだふりをして、こちらも邪心を振り払った。