天満つる明けの明星を君に【完】

思いきり両手を伸ばして湯船に浸かって寛いでいた。

身体を動かした後にあたたかいご飯が食べれるのはとても幸せなことなのだといつも思っていた。

温泉の濁り湯を手で掬って顔を洗おうとした時――戸の先に雛菊の気配がした。


「え…雛ちゃん?」


「天満様…!だ、だ…旦那様がすぐそこに…!」


ひっ迫して差し迫ったその声色に天満が腰を浮かすと、雛菊が中に飛び込んできて思わずまた首まで湯に浸かった。


「落ち着いて雛ちゃん、僕の結界があるから絶対に入ってこれないから」


「でも…でも…!」


――そこではたと目が合った。

動転していた雛菊は、水が滴る髪をかき上げて心配そうな顔をしている天満が裸であることに、再び絶叫。


「きゃぁーっ!」


「ちょ…ちょっと雛ちゃん落ち着いて…。あの…着替えを取ってくれるかな…状況を知りたいからここから出るよ」


両手で顔を覆って見ないようにしながらも、指の隙間からちらりと見てしまい、意外と鍛えられている引き締まった上半身を見てまた叫びそうになった雛菊は、慌てて脱衣所に戻って籠に大きな手拭いと天満の着替えを入れて床に置いた。


「あの…怖いからここに居ていい…?」


「えっ?えーと…うん…僕ここで着替えるけど…」


「見ません!後ろ向いてます!」


立ったまま壁に手をついて目を閉じていると、しばらく困惑していた天満は駿河が向かってきているという雛菊の話を聞いてどうしたものかと考えていた。


嫁が独り身の男の元に通っているのだから、気が気でないのは分かる。

それよりも雛菊が駿河から暴力を受けているのは間違いないため、天満は素早く着物を着て雛菊の背中をつんつん突いた。


「じゃあ行こうか。雛ちゃんは外に出ちゃ駄目だよ」


「でも…」


「‟でも”は禁止!僕に任せて」


どんな理由であっても雛菊を傷つけるのは許せない。

確固たる意志でもって、居間に向かった。