天満つる明けの明星を君に【完】

真剣な顔でがくがく揺さぶられ続けているうちに笑みがこみ上げてきた天満は、雛菊の額を軽くぺしっと叩いて止めさせた。


「分かった。分かったから揺さぶらないで」


「ほんとっ?ありがとうっ」


雛菊の大きな目がさらに大きくなって表情がぱあっと輝くと、普段俯きがちな雛菊が快活になったのが嬉しくて、また頬が緩んだ。


「でも本当に危険だよ?僕多分…殺すし…」


「…でもそれが天満様のお家の家業なんだってちゃんと分かってるから…だから…」


「そっか。うん、じゃあいいよ。でも危なくなりそうだったら避難してもらうよ?」


「うん、全力で逃げるから大丈夫」


ここずっとあまり寝ていなかかった天満が欠伸をすると、雛菊はぱっと居間から居なくなった。

天満がぼんやりしているうちにすぐ戻って来て、袖を引っ張って催促した。


「お布団用意したから寝て下さい。主さまから届いた文は私が整理しておくから」


「そう?じゃあちょっと寝るからよろしくね」


大量に届いている文の整理を手伝ってくれていた雛菊の手際は良く、元々寝坊助な天満は居間の隣の部屋を自室としていて、床が敷かれているのを見てぼそり。


「やっぱり夫婦みたいだなあ…」


所帯を持つことを半ば諦めていた。

いつまで経ってもまともに女と話せず、こうして気さくに話せるのは所帯持ちの雛菊だけ。

幸いなことに兄弟が多く、自分が所帯を持たずともきっと大丈夫だろうと高を括っていた。


「おやすみなさい」


誰に言うでもなくそう呟いて目を閉じると、あっという間に眠りに落ちて、すやすや。

しばらくして様子を見に行った雛菊は、童のような表情で寝ている天満の傍に座って、安堵していた。


…天満の傍に居れば、嫌なことを全て忘れられる。


「天満様…」


助けて。