天満つる明けの明星を君に【完】

それからの数日間――幽玄町の朔から続々と届く文に目を通して選別し、何を最優先にすべきか悩みながら考え、如月に助言を貰いながらも朔に送る文にはとても小さい字で一言だけ書いた。


‟状況を把握したと思う”


そして身体の鍛錬も怠らず、無心に刀を振っているととても心が落ち着き、そしていつも雛菊が見守ってくれていることが心強くて、毎日宿屋に送り届けながら毎回駆けつけてくる若旦那――雛菊の夫である駿河(するが)という白髪の男を見分していた。

雛菊は駿河の前では相変わらず委縮してほとんど話さない。

話さないくせに駿河に肩を抱かれると嬉しそうな顔をして、どういうことなのだろうかと首を捻る数日間だった。


「雛ちゃん、明日ちょっと遠出するから戻れないんだ。これ、渡しておくね」


「これ…鍵…?」


「うん、この家の鍵。雛ちゃんと僕しか入れないように結界を張ってあるから心配しないで」


「天満様…どこに行くの?遠出ってどこ?」


「朔兄の文に気になることが書いてあったからそこまで言って見て来ようと思うんだ。ちょっと血生臭いことが起きてる気がする」


雛菊は天満が危険かもしれない場所に行こうとするのが嫌で、湯飲みを脇に置いて天満ににじり寄った。


「天満様…危ないことはやめて…」


「え?でも幽玄町に居る時の方がもっと危険だと思うよ。僕たち一族は戦いの場に身を置いている時が一番生きてるって感じることができるんだ。根っから戦うのが好きだから大丈夫」


…外見はこんなに透明感溢れる美しい青年なのに。

やはり百鬼夜行を行い、日々戦い続ける一族なのだなと痛感してそっと手を伸ばして天満の袖を握った。


「…私もついて行っていい?」


「えっ!?いや、それはちょっと…危険かもしれないし…」


「怪我をしたら治療します。身の回りのお世話が私の役目だから…だから一緒に行かせて?」


うーん、と唸る天満の袖をぐいぐい引っ張ってがくがく揺らした。

意外に強い力で揺さぶられて、縦に首を振るまで揺さぶられ続けた。