天満つる明けの明星を君に【完】

髪を拭いてぼさぼさになった頭のまま居間に戻った天満は、いつもの癖で帯は締めているものの胸元がだらしなく緩んでいて、均整の取れた胸板が見えていて、雛菊をぎょっとさせた。


「て、天満様…ちゃんと胸元を…その…」


「あっ、ごめんね、つい癖で。気を付けます…」


ふたりできょときょとしつつ用意してくれた夕餉に舌鼓を打ち、朔が大量に持ち込んでくれた酒を雛菊の前で振った。


「雛ちゃんお酒はいける?」


「うん、飲めるよ。あんまり強くないけど」


「じゃあ飲もう飲もう」


――雛菊は風呂上がりでなんだか色っぽい天満を上目遣いに見ながら緊張していた。

…幼い頃はじめて会った時にも感じていたが…

天満は優しそうに見えて、男らしい面も沢山ある。

酒を一気飲みする様も、その盃を持つ手の大きさや指の長さも、意外と大きな足も――全て色っぽく見えてしまう。

これで独り身だと言うのだから、世の女が放っておくはずがない。

だが信を置いてくれているのは自分だけなのだと思うと、ちょっと誇らしくなって、天満の盃に酒を注いだ。


「ねえ雛ちゃん。子ができないって言ってたけど…何か問題があるの?」


「…妊娠は何度かしたことがあるんだけど…全て流れてしまって。それで…」


「それで肩身が狭いっていうこと?…雛ちゃん、話しづらいだろうけど、僕にはちゃんと話してほしい。雛ちゃんはつらい目に遭ったりしてるんじゃない?」


ぎくっとした表情になったのを見た天満は、膳を脇に寄せてぐっと雛菊に近付いて座り直した。


「つ…つらい目っていうのは…?」


「…例えば冷たくされてるとか。…痣ができるようなことをされてるとか?」


「っ!」


雛菊が痣を隠すように右手首を背中側に回して隠した。

天満はやや切れ長の目でそれをじっと見ていたが――ふっと視線を外して伏し目がちになると、頭を下げた。


「ごめん、言いたくないよね。話したくなったら言って。困ってる人が居たら手を貸してやりなさいって母様から口を酸っぱくして言われてたから、つい。ごめんね」


「ううん…」


「後で散歩をしよう。この辺りはまだ散策してなかったから」


雛菊は口を開けたり閉じたりしていた。

きっといつかは話してくれる――

焦らず待とうと決めて、また酒を煽って飲んだ。