天満つる明けの明星を君に【完】

毎日みっちり朔や雪男と鍛錬を行っていたため、一日でも身体を動かさない日があると、むずむずして仕方がない。

しかし相手が居ないため、二振りの刀を構えると、朔や雪男と戦っているのを仮想して目を閉じて無心に刀を振り続けていた。

そうして何時間も身体を動かしているうちに全身から汗が噴き出て、仮想だとしても朔や雪男に勝つことができず、歯を食いしばって無我夢中になっていた。


それは見る者全てが‟あれは世にも美しい剣舞だ”と言わしめて、偶然その光景に出くわした者たちは足を止めて熱心に見入っていた。

妙法、揚羽という二振りの刀自体が鈍く光を発していて、その刀身が凄まじい切れ味であることは素人目にも分かる。

普段はおっとりしている天満だが――こうして刀を手にすると途端に男らしく表情が引き締まり、まるで月光のようだとよく朔に表現された。


「あの、天満様…」


「!おっと、もうそんな時間…?」


目を開けるといつの間にか日暮れが近付いていた。

はあはあと息を切らしながら刀を鞘に収めた天満は、縁側に腰かけて雛菊が手渡してきた手拭いで汗を拭いた。


「天満様、あの…」


「うん?」


「あの…とても素敵だったよ。いつもの天満様じゃないみたいで、ちょっと怖い位素敵だったよ」


雛菊に褒められて一瞬きょとんとしたが、なんだか猛烈に恥ずかしくなって手拭いで顔を覆って汗を拭く振りをしながらきっと今の自分はとても真っ赤な顔をしているのだろうと感じていた。


「そっか、ありがとう。一応これでも刀の腕にはちょっと自信があるんだ」


「ちょっとって感じじゃなかったよ。ご飯はもう食べた?」


「いや、まだだよ」


「じゃあ私が作ってる間にお風呂に入って来て下さい。さっぱりしてきてね」


「う、うん」


――なんだか夫婦みたいだな、と思ってしまったと同時に、背徳感に襲われてぶるぶる首を振った。


…宿屋で旦那と話していた時の雛菊とは違い、今は生き生きしていておどおどしていたあの時と全く違う。


あの宿屋に秘密がある――

風呂に入って汗を流しながら、どう調べようかずっと考えていた。