天満つる明けの明星を君に【完】

鬼頭家の者が集落に住むという報は広く知られているようで、どうあがいても注目の的になってしまって気が滅入ったが、鬼頭の者として堂々としなければならない。

それは父母両方から口を酸っぱくして言われたため、天満は背筋を正して繁華街を見て回った。

やはり雛菊が嫁いだ宿屋の建物が一番大きくて立派だ。

遊郭の前だけは通りたくなかったのだが集落の全容を知るために通らざるを得ず、二階や三階から黄色い声援を浴びて仕方なく小さく手を振った。


「天満様…人見知りなのは知ってるけど…女の人はもっと駄目?」


「うん、もっと駄目だね。ぐいぐいくる女の人なんてもっと駄目だね」


「もったいない。天満様ほどかっこよかったら普通なら女遊びが激しそうなのに」


「ははは…」


乾いた笑みで躱した天満は、繁華街を一通り見て回った後、宿屋の前に戻って足を止めた。


「じゃあ雛ちゃん、また夜にでも」


「…はい」


どこか名残惜しそうに見上げてくる雛菊を見つめていると――出入口から男が出て来た。


「雛菊!戻って来ないから心配していたんだぞ!?」


「あ……だ、旦那様、ごめんなさい」


――明らかに雛菊が委縮した。

男はそんなに背は高くないが優男で、鬼族にしては身体が小さく威圧感もない。

常に笑みを絶やさず、俯いている雛菊の肩を抱くと、少し訝しそうな表情をしている天満を見てぱっと頭を下げた。


「雛菊を送ってくださったんですか?ありがとうございます」


「ああ、いいえこちらこそ雛ちゃ…雛菊さんには今後お世話になるので、こうして遅くなることもあるかと思いますが、どうぞよろしく」


じゃあまたね、と天満が声をかけると、雛菊は一瞬少し顔を上げて頷いた。


…暴力を振るいそうにはないが、違和感はある。

宿屋内に入りたかったが今回は遠慮して、その場を去った。