皆で少し早い夕餉を食べた後、朔は百鬼夜行を行うため幽玄町に戻らなければならなかった。
今日から独り暮らしが始まる天満は全てを楽しもうという思いで楽観的だったが、母の息吹はなかなか子離れができずにずっと天満の袖を握っていた。
「息吹、天満が困っている。もう帰るぞ」
「でも…私…一泊して行こうかな…」
「あははっ、母様…心配してくれてありがとう。でも僕はここで朔兄の手助けをして、朔兄の目の届かない小さなことにも手を差し伸べてやっていきたいです。僕だけの力で」
「ん。文は頻繁にやり取りしよう。これはお祖父様から頂いた式神の札だ。これを飛ばしてくれたら最速で俺に文が届く」
祖父の晴明から贈られた数十枚にも及ぶ札を渡された天満は、またあの祖父も心配性であることを思い出して笑った。
「さあもう行って。他の弟妹たちも続々と発つんでしょう?こうして手伝いに行くんでしょう?どうかお身体には気を付けて下さいね」
息吹は後ろ髪引かれる思いで袖から手を離し、朔と十六夜がその肩を抱いて朧車に乗り込ませた。
…泣いている母を見るのは本当に心が痛む。
御簾を上げてずっと手を振っている息吹に同じようにずっと手を振り、最後に残った朔は、耳元でぼそりと呟いた。
「天満…この集落で何かが起きている。お前は悟られないようにそれを探って排除してくれ。お前の世話をしてくれる者にも注視してくれ。きっと…お前にしかできない」
「え?はい、分かりました。じゃあ朔兄気を付けて。雪男とあまり喧嘩せず仲良くして下さいね
分かった、と返事をして、朔たちが上空を行くと、天満は姿が見えなくなるまで庭に立っていた。
…あの兄がそこまで警戒するのだから、きっと大ごとなのだと思った。
「さて、もう一度風呂に入ろうかな」
悠々自適を満喫しつつ、朔のために――家のために、身を粉にする決意をした。
今日から独り暮らしが始まる天満は全てを楽しもうという思いで楽観的だったが、母の息吹はなかなか子離れができずにずっと天満の袖を握っていた。
「息吹、天満が困っている。もう帰るぞ」
「でも…私…一泊して行こうかな…」
「あははっ、母様…心配してくれてありがとう。でも僕はここで朔兄の手助けをして、朔兄の目の届かない小さなことにも手を差し伸べてやっていきたいです。僕だけの力で」
「ん。文は頻繁にやり取りしよう。これはお祖父様から頂いた式神の札だ。これを飛ばしてくれたら最速で俺に文が届く」
祖父の晴明から贈られた数十枚にも及ぶ札を渡された天満は、またあの祖父も心配性であることを思い出して笑った。
「さあもう行って。他の弟妹たちも続々と発つんでしょう?こうして手伝いに行くんでしょう?どうかお身体には気を付けて下さいね」
息吹は後ろ髪引かれる思いで袖から手を離し、朔と十六夜がその肩を抱いて朧車に乗り込ませた。
…泣いている母を見るのは本当に心が痛む。
御簾を上げてずっと手を振っている息吹に同じようにずっと手を振り、最後に残った朔は、耳元でぼそりと呟いた。
「天満…この集落で何かが起きている。お前は悟られないようにそれを探って排除してくれ。お前の世話をしてくれる者にも注視してくれ。きっと…お前にしかできない」
「え?はい、分かりました。じゃあ朔兄気を付けて。雪男とあまり喧嘩せず仲良くして下さいね
分かった、と返事をして、朔たちが上空を行くと、天満は姿が見えなくなるまで庭に立っていた。
…あの兄がそこまで警戒するのだから、きっと大ごとなのだと思った。
「さて、もう一度風呂に入ろうかな」
悠々自適を満喫しつつ、朔のために――家のために、身を粉にする決意をした。

