領主の男は恰幅が良く、いかにも鬼族という風体のいかつい男で、真っ白な髪が印象的だった。


「我が鬼陸奥においで頂けるとは恐縮の極みでございます」


「しばらくはうちの者が出入りしたりするだろうが、秩序を乱すつもりはない。これがここで行うことは百鬼夜行に関連するものであるため多少の事象には目を瞑ってほしい」


「畏まりました」


居間に上がって十六夜の前で深々と頭を下げた赤木(あかぎ)という名の領主は、十六夜の背後に控えている朔をちらりと盗み見た。


…とんでもなく美しい。

それだけで強さが分かるため冷や汗をかいていたが…

朔の隣に座って控えめにしている天満もまた、引けを取らないほど美しく線が細い。

目を合わさないのは人見知りをする子だから、と十六夜が言うと、赤木はなるほどと呟いてまた頭を下げた。


「どうお呼びすれば…」


「天満でいいですよ。真名ですが、僕はそういうの気にしない性質なので」


「では天満様、後程あなた様のお世話をする者が参りますので、どうぞ良しなに」


「え?あなたじゃないんですか?」


「いえいえ私はもう半分隠居しているようなものですから。宿屋は息子が実質仕切っていますし」


じゃあその息子である若旦那が自分の世話をしてくれるのか――と納得した天満が小さく笑って見せると、若干ぽうっとなった赤木は、供の者と家を離れた。


「ねえ天ちゃん、ひとりでご飯食べるの寂しくない?ちゃんとお料理できる?包丁の握り方は…」


「母様の心配性。僕基本的になんでもできるから大丈夫ですよ。でも今日はみんなでここで食べて行きませんか?」


手間が提案すると、いの一番に十六夜が頷いた。


「息吹、天満の好物を作ってやれ。俺も今日は夕暮れまでゆっくりさせてもらう」


天満の顔がぱあっと輝くと、さんにんで天満の頭をぐりぐりした。

三男坊はいつもこうして可愛がられて愛情いっぱいに育てられてきた。

今度は自分が恩返しをする時なのだと、張り切っていた。