実は私物と呼べるものはそんなに持っていない。

大抵朔から借りたり勝手に拝借したりで、これといって愛着のあるものがないため、天満の私物は驚くほど少なかった。

だがそれを見兼ねた息吹は、たんまりと着物や帯などを用意して、恰好にもあまり気を遣わない天満を叱った。


「天ちゃんいい?これからは鬼頭家の子としてみんなから一目置かれる存在になっちゃうんだよ。だから堂々としていてね。恰好にも気を付けてね?」


「あはは、分かってますよ母様。僕は兄弟の中でもしっかり者なので大丈夫です」


「そう?あと女の子にも気を付けてね?…あっ、間違えちゃった。ちょっとは遊んでもいいと思ってるから、好きな子ができたらすぐに紹介してね?」


「ははは…それは…はい…」


急に声が萎んだ天満の頭を撫でた息吹は、さらに天満の荷物を増やすべく屋敷を駆け回っていた。

やることのなくなった天満は二本の妖刀の手入れを縁側でしながら、ぼそり。


「ちょっとは遊んでもいいって…駄目でしょそれは」


「いや、お前は女を知った方がいい。…やり方は知っているんだろう?」


「ああ…そうですね、僕、男版耳年増ですから。いやあでも…できるのかな…無理な気がしますけど」


「何を言ってるんだ。お前も父様の子だぞ。一度覚えたらきっと味を占めて…」


背後で咳払いがして兄弟ふたりがびくっと身体を揺らした。

咳払いした主がふたりをじろりと睨んで廊下を通り過ぎていくと、天満は冷や汗を拭く仕草をして朔を笑わせて、にっこり。


「そういえば引っ越しの日は母様たちと一緒に行くからな。皆で荷解きした方が早いから」


「ああそれは助かります。僕そういうの苦手だから」


「ちなみに風呂は温泉が引いてあるらしいからいつでも入れるらしい。俺も入って行こうかな」


「温泉!入り放題!いいですね、楽しみだなあ、一緒に入りましょう!」


ふたりでわいわい騒いで、隠れて見ていた父母を笑わせていた。