なんとか息吹を宥め透かしつつ、朔の部屋――つまり以前は十六夜の部屋だった場所に足を踏み入れた天満は、部屋の中央に座っている朔の前に置いてある文に注目した。


「朔兄、話ってなんですか?」


「うん、話すから来てくれ」


朔の前に座った天満は、文から目を逸らさずさらにじいっと見つめて朔を苦笑させた。


「この文なんだが、とある者から俺に送られたものだ」


「はあ、そうですか。なんて書いてあるんですか?」


「見てくれ」


文を開いた天満は――中身が白紙であることに目を丸くして、顔を上げた。

朔はしばらく黙っていたが、何故か誰から送られたものかは明かさず、星のような妖気が瞬く美しい目で天満を見つめた。


「お前には陸奥に行ってもらいたい。そこで気にかかることが起きているかもしれないんだ」


「百鬼夜行関連ですか?」


「関連じゃないけど、俺たちには関係してる。この文を寄越してきた者は…何かを伝えたがっているが、書けずにいる状況にあるかもしれないんだ」


「分かりました。手助けすればいいんですね?」


「うん、お前が行ってくれるととても助かるし心強い。その土地に住む俺たちの一族の関係者にはもう話は通してあるから、お前が住む家も決めてある」


「わあ、それはありがたいです。ちなみに…自炊もしたいんですけど」


朔はそう言うと思ったと笑って天満の髪をくしゃりとかき混ぜた。


「お前は人見知りだから家事は自分ですると思ってた。食材も手配するから心配するな」


一安心した天満は、ちらちらと封筒を見て誰かを知りたがったが…朔は教えてくれなかった。


「いつから行けばいいんですか?」


「お前が行きたいと思った時でいい。できればなるべく早めに状況は知っておきたい」


「分かりました。じゃあ数日中に発ちます」


離れ離れになるが、頼られていることが嬉しかった。

だから、寂しくはなかった。