朝方戻って来た朔は、とても満足そうな表情で、逆に雪男は疲れ果てた表情で庭に降り立った。


「朔兄ご苦労様でした。首尾はどうでしたか?」


「ん、上々だった。こいつがあらかた薙ぎ倒してくれたからな」


「久々に暴れたせいで筋肉痛が…」


「爺か!」


朔と天満が同時に爺扱いすると、弁解する力もないのかそのまま縁側に倒れ込んでぐったり。

冷たい茶を朔に差し出した天満は、それを飲んだのを見届けて切り出した。


「朔兄、お疲れのところ申し訳ないんですが、話があるんですけど、いいですか?」


「ん、なんだ?」


「僕たち弟妹はこの屋敷から出て行きます」


…唐突に想像してもいないようなことを言われて頭が真っ白になった朔は、にこにこしている天満をじいっと見つめて肩を掴んだ。


「どういう意味だ?なんでだ?」


「僕たちもう大きくなりましたし、ここで固まっているよりは各地に散らばって情報を集めたりして兄さんを裏から支えた方がいいと思うんです。百鬼夜行には雪男はじめ多くの仲間が居ますし、僕たちの手助けは正直必要ないでしょ?」


「いや…でも…皆でずっと一緒に居られると思ってたから…」


どこか茫然としている朔の袖をきゅっと握った天満は、小さく首を振って笑った。


「でも僕たちいつかはお嫁さんを貰って出て行ったり、お婿さんの元へ行ったりでばらばらになります。できるなら自分たちで伴侶を得たいですし、朔兄を支えたいと皆思ってるんですよ」


「でも…」


「主さま、天満たちは考えに考えてそうするって決めたんだ。我が儘言うな」


寝転んだまま雪男に諭された朔は、ぐっと何かを堪えるように少し黙り込むと、天満の膝を叩いた。


「分かった。分かったけどすぐ出て行くな。俺もお前に話さなきゃいけないことがあるから」


「へえ?なんだろう?」


「ある意味ちょうどよかったとは思ってるけど」


「?」


朔は天満にもたれかかって小さく息をついた。

天満は朔の好きなようにさせて、じっとしていた。


弟妹たちがばらばらになるのではなく、四方から長兄を支えるために皆が奮起していることを分かってほしい。


小さくそう囁き、朔は小さく頷いた。