代替わりが行われる当日――

百鬼夜行を早めに切り上げてきた十六夜は、今後鬼頭家を担う朔と天満を自室に呼び寄せた。

本当は輝夜にも傍に居てほしかったのだが――あの放蕩息子はいつ帰ってくるかも分からないため仕方がなかったが、しっかり者の天満が居ればとりあえずは問題ない。


「朔、これが当時の当主と朝廷の帝が交わした契約書だ」


「これが…すごいな…」


あれから幾星霜の歳月が流れたというのに、その契約書は色あせることなく、押された血判も鮮やかなままで、朔と天満は契約書を熱心に覗き込んで書かれてある条約を口の中で呟いていた。


「ここに書かれてあるものは今現在も続けられている。なおこの契約書は当時の当主が強い術をかけたため破こうとしても焼こうとしても欠損することはない。朔…お前も守れるな?」


「黎明…神羅…」


当時の当主の名は黎明で、朝廷の帝の名は神羅。

しかしどうにも血判の横に書かれてある名の字体が女っぽくて天満が首を傾げていると、朔はこそりとそこだけは教えてやった。


「当時の帝は女だったんだ」


「へえ…どうやって出会って契約を交わすまでになったのかな…気になるなあ」


「…」


「…朔、天満、俺の代で鬼八を封印し続ける役目は終わった。残るはこの百鬼夜行だが、これは終わらせるつもりはない。人と妖の懸け橋にという当時の当主たちの思いを受け継いでくれるか?」


「はい。必ずここに書かれてあることは全て守っていきます」


十六夜が契約書を朔に託す――

そうすることで代替わりは成し遂げられて、新たな当主がこの日、誕生した。