天満つる明けの明星を君に【完】

それでも悪夢を見る時はある。

駿河の爪が雛菊の腹を貫いて崩れ落ちたあの時の光景――それはどれだけ時が経っても脳裏に焼き付いていて離れることはない。


「はっ!……ああ…またあの夢か…」


飛び起きて額を押さえて俯いていると…そういう時決まって暁が察したかのように会いに来る。

何かに痛めつけられたような表情をしている天満の腕にぎゅっと抱き着いてぴったり身体を寄せて、何も話さない。

そうされるだけで心が落ち着いた天満は、暁の存在が心の拠り所になっていた。

そして暁の歳が十を超えると朔は百鬼夜行に時々連れていくようになり、もちろん天満も帯同して朔を手伝った。


「ねえ猫ちゃん見て。海のあそこ、きらきらしてる石みたいのがあるよ。拾って天ちゃんにあげよ」


「でも夜の海は危ないにゃ。月明りもないのに光るなんて怪しいにゃ」


「大丈夫大丈夫。ほら行って」


猫又に跨っていた暁が百鬼夜行の隊列から離れて光っている波間の上で止まらせた。

手を伸ばして海の中に手を突っ込もうとした時――


「きゃーーっ!」


「お嬢!」


突然足が細長いものに絡め取られて空中に身体を投げ出されると、その光っていたものが巨大な烏賊の目だと分かって、連呼。


「天ちゃん天ちゃん天ちゃん天ちゃーん!助けて―!」


「ああもうっ!目を離すとこれなんだから!」


暁が隊列から離れた所からすでに気付いていた天満がすかさず後を追って目に留まらぬ速さでその足を切り取って暁を抱き上げた。


「だってきれいだったから天ちゃんにあげようと思って…」


「その気持ちは嬉しいけど離れちゃ駄目。君に何かあったら僕が朔兄にものすごく怒られるんだからね」


「私が一緒に謝ればだいじょーぶ。天ちゃんありがと」


ちゅっと頬に口付けをされておませな態度を取った暁の頭を軽くぽかっと叩いた天満は、再び猫又の背に乗せて百鬼夜行の隊列に戻った。


暁が当主として起つにはまだ時がかかる。

だが雛菊が居ない穴を暁が埋めてくれる。

悪夢を見た時、暁がいつも助けに来てくれる。


天満にとってかけがえのない存在になっていた。