天満つる明けの明星を君に【完】

その日のうちに、鬼陸奥全体に雛菊が亡くなったことを知らせた。

妖は人のように弔問をすることはないが、それでも若くして命を散らせ、しかもそれが元旦那の仕業とあっては黙っていられない者も多く、玄関には山で摘んできた花などが次々と供えられた。


やっと外に出る気分になった天満は、物干しざおの前で落ちたままの洗濯物を拾った。

駿河の骸はすでに朔たちが処分していたが、洗濯物にまで気が回らなかったらしく、これを取り込むために外に出てあんな目に遭ったのかと思うとまた視界が滲んだ。


「こんなの…僕が取り込んだのになあ」


そしてまた部屋に戻り、雛菊と娘の骸が安置されている部屋へ行くと、傍に座って雛菊がいつも身に着けていた紅玉の耳飾りにそっと触れた。


「雛ちゃん…片方だけ僕が貰ってもいい?君が僕と共に生きた証を…君の形見を持っていたいんだ」


「それは雛菊も喜ぶだろう。そうしてやりなさい」


晴明の賛同を得た天満は、金具を外して耳飾りを外すと、躊躇なく自らの左の耳たぶに突き刺して金具で留めた。


「天ちゃん、血が…」


「これ位なんともありません。朔兄、一緒に来てほしい場所があるんですけど」


「ん、ついて行く」


天満が朔を伴って連れて行った場所は、雛菊の生家だった。

干しっぱなしの洗濯物は冷えてかちかちになっていて、小さな着物を取り込みながら誰の物かを教えた。


「これ全部雛ちゃんのです。娘に着せるんだって張り切ってたんだけど…」


「…全て取っておこう。雛菊が転生してお前との間にまた子ができたら、着せてやるといい」


「いつになることやらの話ですけど、そうさせてもらいます。天気が良いからもう一回干そう」


「お前のその耳のやつ、似合ってる。男前度がさらに上がったな」


はははと笑い声を上げた天満は、朔と一緒にまた天日干しをして縁側に座った。

明日はついに別れの時を迎える。

ちゃんと笑顔で見送ってやれるか心配だったが、やるしかないと思った。