天満つる明けの明星を君に【完】

天満の心身の消耗は激しく、雛菊と過ごした日々を長い間語った後、再び雛菊の元へ戻って壁にもたれ掛かって座った。


「天満、床に横になりなさい。そなたが参ってしまう」


「ああいえ…今横になるとなんていうか…心が弱り切ってしまいそうなので」


――一緒に連れて逝ってほしい、と言いかけた。

晴明はそれを咎めなかったが、天満は晴明に頭を下げて謝った。


「お祖父様…僕は言いつけを破りそうになりました。ごめんなさい」


「そうだね、あれは危うかった。けれど雛菊が止めてくれたのは、そなたに生きていてほしいと思っていたからだろう」


「そっか…雛ちゃん…」


温かいものを食べて、温かい心に触れて、急に睡魔がやってきた天満が壁にもたれ掛かったまますうっと寝入ってしまうと、晴明は天満の身体に掛布団をかけてやった。

雛菊が死んだのは昨日のこと。

現実をすぐに受け入れるには、人も妖にとっても突然すぎて通常の生活に戻ることは難しい。

これはもしかすると長丁場になるかもしれない、と半ば覚悟を決めていると、息吹が晴明の分の料理を持ってやって来た。


「天ちゃん寝てるね。良かった」


「息吹…ふたりの縁が深すぎる故、心の傷を癒すにはかなりの時がかかるやもしれぬ。明るく見せていたとしてもそれはまやかしで、装っているだけだよ。いわば心の武装だ。そなたもそれに騙されはならぬよ」


「はい」


皆が部屋を出ている間に雛菊の死因を調べていた晴明は、小さく息をついて両手を合わせて祈っている息吹に小さな声で囁いた。


「死因は外傷からの大量出血だった。それと‟闇堕ち”した者に触れられたことへの身体の激しい拒絶反応だ。いくら妖とはいえ流れた血の量が多すぎた」


「そうですか…できるなら代わってあげたかった…」


「それは十六夜の前では言わぬがいい。気が動転して見られたものではなくなるからね」


ふたりで天満の寝顔を眺めた。

これ以上天満が傷つくことのないよう祈りながら、見守った。