天満つる明けの明星を君に【完】

その日息吹は台所に立ち、きれいに研がれている使いこまれた包丁やまな板を見てまた泣きそうになって忙しく台所を動き回っていた。

晴明は死者を弔うのは慣れているからと雛菊の傍から離れず、朔と雪男は一応念のために天満の傍から離れず話を聞いてやっていた。

食べきれないほどの量の料理を時間をかけて作って居間に運んだ息吹は、その大量の料理に目を細めて笑った天満にほっとして隣に陣取って座った。


「さあみんなで食べましょう。お祖父様の分はちゃんと取ってあるから遠慮せず食べてね」


「わあ…美味しそうだなあ」


天満はそう言ったが箸は全く進まず、息吹は海苔に炊き立ての白米を一口で食べれる大きさに巻くと、天満の口元に持っていった。


「天ちゃん、あーんして」


「え…自分で食べれますよ。ありがとう」


海苔巻きを受け取って食べた天満は、その温かさと味に心からほっとして、箸を持ち直して他の料理も口にしていった。


「天満の好物ばかりだな。ずるいぞ」


「ええ…っ、僕のせいじゃないもん…」


「じゃあ明日は朔ちゃんの好物沢山作るから。ねえ天ちゃんたちに教えてなかったことを教えるね。人の習わしでは、大切な人を亡くした時は故人を想って沢山思い出を話すの。だからここで暮らしてた時のこと沢山話してほしいな」


――思えば喧嘩らしい喧嘩をしたこともなかったけれど、気持ちが通じ合ってから過ごした時間はかけがえがなく、様々な場所へ出かけていっては思い出を作った。


ああそうか、その思い出を胸に抱いて生きてゆける――


「長い話になりますけど…」


「どんなに長くたっていい。お前たちが出会った所から全て聞かせてもらおうか」


天満の手に盃を持たせてなみなみと酒を注いだ。

悲しみを皆で分かち合えば、少しはこの心の傷みも軽くなるかもしれない――

ぽつぽつと語り始めた。

雛菊が生きてきた証を。