天満つる明けの明星を君に【完】

ゆっくり起き上がった天満は、息吹の手を握ったまましばらく黙っていた。

あれは悪夢なんだと思いたかったけれど――こうして朔や息吹が駆け付けていたことで、よりいっそうやはりあの悲劇は現実なのだと実感していた。


「…雛ちゃんは…」


「うん…隣の部屋に居るよ。お祖父様が傍に居てくれてるから心配しないで」


部屋を見回すと、朔と雪男が微笑みかけてきて笑い返したが引きつっていたかもしれないと思って頬をかいた。

――雛菊は最期の最期まで、笑っていた。

自分はこうして悲しんでばかりなのに、これでは雛菊に笑われると思って急に笑みがこみ上げてきた。


「天ちゃん?」


「雛ちゃんは…駿河から酷い暴力を受け続けても耐えて耐えて…朔兄に白紙の文を寄越したのも自分が苦しいことを訴えたいんじゃなくて、何か悪事を働いている駿河を止めてほしかったんじゃないかなと思うんです」


「うん…そうかもしれないね」


「雛ちゃんはとても強かった。あんなにぼろぼろになっても誰にもそれを言わずに我慢し続けたんです。僕は…雛ちゃんの窮地に間に合わなくて本当にそれが悔やまれるけど…雛ちゃんはそんな僕を一言も責めなかった。本当に強い女の子でした」


――天満が現実を受け入れようとしている――

縁側に居た朔は天満の傍に移動して座ると、肩に手を置いて言い聞かせた。


「口では転生してくるのを待たないでほしいと言いつつも、転生してからもやっぱりお前と共に在りたいと思って悔いて、昇華できずにいたんだな」


「でも母様に導いてもらったって言ってました。母様はすごいなあ…なんでもできるんだなあ」


しみじみとそう言われた息吹はきょとんとして、ふるふる首を振った。


「え?私なんにもしてないよ?」


「いえ、雛ちゃんにとって希望の光だったんです。母様ありがとう。雛ちゃんきっと、怖がらずに逝きました」


――とうとう我慢できなくなった息吹がうずくまって肩を震わせていると、天満は床から出て息吹の背中を何度も何度も優しく撫でた。


「僕…悲しんでいいですよね?いつまでもとは言わないけど…今くらい…」


「うん、いいんだよ天ちゃん。みんなで一緒に雛ちゃんと赤ちゃんのこと話そ」


名を付けてやることもできなかった娘を想った。

次こそは…全力で慈しんで愛してやろう、と思った。


「また僕の元に産まれて来てくれるかな…」


産まれておいで。

次こそは、全力で守ってあげるから。