天満つる明けの明星を君に【完】

雛菊と娘の骸を抱き上げた天満は、その重たさにまた涙を落とした。


「こんなに…重たかったかな…」


失った命をもう無かったことにすることはできない。

またいつか――いつかまた巡り合うことができるのならば、自分がこれ以上苦しむことはないし、ずっと待っていられる自信がある。


「ほら雛ちゃん…あの星?雛ちゃんそういえばあの日の朝もこうやって外を見てたね」


羽織に包んだ雛菊の額に口付けをした天満は、一緒に明けの明星を見ながら白い息を空に吐いた。


「来世も一緒にこうやってあの星を見よう。お祖父様は陰陽師だから、あの星が何なのかすぐ分かるよ」


『天満さん…本当にありがとう。私の迷いって、やっぱり来世もあなたと一緒になりたいってことだったんだね』


「僕らの愛が駿河の呪いに打ち勝った瞬間だよ。雛ちゃん、お疲れ様でした。その扉を潜って…少しの間、眠っておいで。心配しないでも僕は雛ちゃん以外の女の子には目も向けないから」


『ふふ、そこは心配してません。天満さん、いい?私があなたの傍に行くまでどれだけ時間がかかるか分からないけれど…その前にきっとあなたはあなたを癒してくれる存在と出会えるから』


「うん、分かった。ああ…確かにあの星、きれいだね。知ってる?太陽が昇るほの暗いこの時間のことを暁って言うんだって。百鬼夜行は大体この時間に終わって、この明るい…明けの明星と暁を見ながら屋敷に帰るんだよ」


――この時空を見ていた天満は気付いていなかったが、傍に居た実体化していた雛菊は、煙のようにその姿を揺らめかせながら消えていっていた。


『そっか。明けの明星…暁……ふふっ』


そうして、消えていった。

天満はいつまでも赤みを増した空を見上げていた。

雛菊と娘にまた出会えることを願って――