天満つる明けの明星を君に【完】

雛菊の目にも、目の前にある大きな扉が少しだけ開いているのが見えていた。

ああ、これが昇華できない原因だったのか…。

天満に待っていてほしくないと言いながらも、本音ではまた来世で巡り合って添い遂げたいと思っているからなのかと思うとおかしくなって、両手で口元を覆った。


『私…やっぱり欲張りだったみたい』


「今頃気付いたの?雛ちゃんは我が儘だし欲張りだよ。気が強いし、僕がちょっと他の女の子と話すだけでも目がこんなに吊り上がって…」


目の両端を指で吊って怒った顔つきをすると、雛菊は吹き出してくすくす笑った。


「でも僕は雛ちゃんと出会ったことで少しだけ人見知りを解消できた。外に目をやることもできたし、小さな世界で生きることをやめたよ。それは雛ちゃんのおかげなんだ」


『私こそ…ありがとう。私の隠しておきたかった過去を話すことができたのは、天満さんのおあかげだよ。そして…主さま、ありがとうございました』


部屋の隅に控えていた朔は、目を閉じてゆっくり頷いた。

雛菊が白紙の文を朔宛てに出し、朔がその意を汲み取ったから天満が派遣された――

その末に結ばれてこうなれたことを、心から感謝していた。


「天満さん…重ねて言うけど、私はいつまた転生するか分からな…」


「それは大丈夫。だって雛ちゃんをその扉まで導いてくれた人がきっと僕らが出会う所まで手引きしてくれてるはずだから」


『ふふ…そうかな。じゃあもう私…思い残すこと、なくなったかもしれない』


そう言いながらも外を見た雛菊は、真っ赤に明けてきた空を見て、天満の顔を覗き込んだ。


『ねえ天満さん…私と娘に、外を見せてやってくれない?すごく明るい星が輝いててきれいなの』


「うん…分かった」


――雛菊が昇華する。

晴明は祝詞をやめて、雛菊の硬直した骸の関節が和らぐ術をかけて、縁側へ連れていくよう天満に小さく囁いた。