天満つる明けの明星を君に【完】

本音を言えば、一緒に逝きたい。

雛菊の居ない今後の人生など想像もできないし、それだけ苦しむことだろうか。

鬼族の者が罹る恋煩いは致命的な病と言っても過言ではなく、結局自分は遅かれ早かれ雛菊の後を追って死んでしまう可能性が高いのだ。


「雛ちゃん…それは…誰…?」


『会えば分かるよ。天満さん、それだけは約束するから。実はね、私はずうっと夢の中で会ってたの。だからあんまり悲しくないのかな』


相変わらず雛菊が言っていることは意味が分からない。

天満は雛菊の骸と、実体化している透明な雛菊を交互に見つめて――嘘をついても見破られると思い、正直に告白をした


「本音を言えば…一緒に連れて逝ってほしかった」


『…うん…ごめんね』


「だから…僕は雛ちゃんを待つよ」


『!天満さん…だからそれは…』


「雛ちゃん…僕に希望を持たせてほしいんだ。僕を愛してくれる何者かが来てくれることは嬉しいけど…僕は雛ちゃんを待ちたい。どれだけ時間がかかっても構わない。僕が苦しむのは僕の勝手で、雛ちゃんの責任じゃないんだよ。今の僕が死んで転生しても…ずっと雛ちゃんを待ってると思う。だって雛ちゃん…僕たちは似た者同士て、一心同体でしょ?」


――人見知りな所も、奥手なところも、物事の考え方も全て似通っていた。

はじめて会った時からあんなに打ち解けられたのはこの人生において雛菊だけで、今後の人生においてもきっと雛菊だけだろうという確信があった。


『天満…さん…』


「また僕の真名をその声で呼んで欲しい。いつになっても構わないよ。それとも…僕が雛ちゃんより可愛いお嫁さんを貰ってもいいの?」


――そう問うと、急に雛菊の目がぎらりと光り、本来雛菊が持ち合わせていた気の強さが前面に出て思わず吹き出した。


『それは…やだな…』


「でしょ?だったら僕はやっぱり待つことにするよ。それまではきっと雛ちゃんの隠し玉が僕の苦しみを分かち合ってくれるんだ。ねえ雛ちゃん…だから最期に約束をしよう」


天満は隣の雛菊に手を差し伸べて、小首を傾げて笑った。


「だから約束をしよう。僕は雛ちゃんを待ってる。だから来世にまた再び巡り合って夫婦になろう。それを約束してほしい」


――雛菊の身体が淡く光り始めた。

晴明はその好機を見逃さず、祝詞を唱え始めた。