天満つる明けの明星を君に【完】

ここで‟分かった”と言えば、雛菊とはもう会えない可能性が極めて高い。

だけれど、‟いやだ”と言えば――雛菊の魂は穢れて、駿河の呪いに絡め取られてそれこそ二度と転生できない。

結局はどちらを選択しても雛菊には会えないのではないのか――?


懊悩した天満は、頭を抱えてうずくまったまま動かなくなった。

この天満の選択如何によっては強硬手段に打って出なければならないかもしれない。

晴明の使役する十二神将が強制的に雛菊を昇華させて、転生してくる時間がさらにかかるかもしれない。

妖とて不死ではなく、‟今の”天満と巡り合う可能性が極めて低くなってしまうため、それだけは避けなければならなかった。


――そんな晴明や朔の考えをよそに、天満は苦悶しながらも、どうしてもひとつの決断にしか至れず、歯を食いしばって低い声で呻いた。


「僕も…一緒に…」


朔が腰を浮かした。

‟一緒に逝きたい”と言ってはならない――晴明に事前にそう聞かされていたため、それを口にしようとしている天満を止めるため手を伸ばしかけたけれど、天満を止める者が在った。


『天満さん…それ以上は言っては駄目』


「雛ちゃん……」


顔を上げた天満の目は涙に濡れていた。

雛菊は何度も何度もごめんなさいと囁きながら、天満の傍に移動して寄り添うようにして身体をくっつけた。


『私は今自分自身が彷徨っているし、あなたを連れて逝くことは本望ではないの。天満さん、あなたは待っていないと』


「誰を…?雛ちゃんを……?」


『ううん、違うよ。天満さん…待っていて。あなたを支えて、あなたを愛してくれる存在がきっと傍に来てくれるから』


「そんなの…雛ちゃんしか居ないよ…」


『私には分かるの。だって約束してくれたから』


私たちの、娘が。