天満つる明けの明星を君に【完】

「雛ちゃん、僕に何かしてほしいことがある?なんでも言って」


『…』


雛菊はしばらく考え込み、また自らの骸と赤子の骸を交互に見つめた。


『私もう天満さんに伝えたいことは多分伝えちゃったから…後はなんだろう…』


「でも雛ちゃん…痛くて苦しくて、言えなかったこともきっとあるはずだよ。よく思い出して」


それでもぼんやりしたままの雛菊だったが、天満はそんな姿でもまだ見ることができて嬉しいと思っていた。

とにかくできるだけ長く繋ぎ止めていられたらいいな、と。

その元気そうな姿を見ていられることができたらいいな、と。


『…強いて言うなら…天満さんが約束してくれなかったことかな』


「…え…?」


『あの時もう私は目が見えなかったし、天満さんに返事を貰う時間もなかったからかもだけど…今約束してもらえる?』


――次に転生してくるまで長い時間がかかるかもしれないから、私を待たないでほしい――

そう雛菊は言ったけれど、それだけは…それだけは約束できない、と強く思っていた。

確かのあの最期の時、返事をする間もなく雛菊が逝ってしまったため、どうすることもできなかったが…今ならその返事をする時間はある。


「雛ちゃん…」


『お願い天満さん。あなたをこんなにも苦しめているのに、これからもずっとあなたを苦しめるわけにはいかないの。だからお願い…』


これが昇華できない原因なのか?

それとも駿河の呪いが原因なのか?

約束してしまったら――雛菊はもう転生してこないかもしれない。

だったらどんな決断が最適なのだろうか?


――天満は頭を抱えてうずくまった。

雛菊はそんな天満を静かな目で見つめて、答えを待っていた。