雛菊が語ったのは――天満に腕を斬り落とされて崖下に落ちた後、命からがらなんとか生きながらえて洞窟で仮死状態になっていたという話だった。
記憶を無くし、その間に‟闇堕ち”していたことがなかったかのようになったものの、唯一強く思い続けていた雛菊に会わなければという一存で怪我が治るまで昏々と眠り続け、妙法と揚羽の二振りの妖刀がつけた傷口はなかなか塞がらずに今までかかったそうだが――
そんなことが可能なのかと晴明に訊いてみたかったけれど、晴明は気を集中させていてそれを途切れさせるわけにはいかなかった。
「雛ちゃん…びっくりしたよね…。怖かったでしょ…?」
『うん…私…逃げたかったけど身体が動かなくて…』
悲しげに俯いた雛菊の手を握ろうと手を伸ばしたが――その手を握ることは敵わず、雛菊の腕を突き抜けていった。
ああ、本当にもう雛菊は死んでしまったのか――
実感が怒涛のように襲ってきて嗚咽がもれた天満は、片手で口元を押さえてなんとか堪えながら、再び頭を下げて謝った。
「本当にごめんね…僕、きっともっと早く助けに行けたと思うんだ。だけど…」
『ふふ…天満さんは私がお願いしたことをやってくれたんでしょ?着物…干してくれた?』
まるでいつもの会話をしているようで、鼻を啜った天満は頷いて小さく笑った。
「ちゃんと干してきたけど…雛ちゃん、あれは全部女の子用だよ?」
『うん、それでいいの。きっといつか意味が分かるから。きっと天満さんびっくりするよ』
そうやって言葉を濁すけれど、だけどその答えはもう貰えないじゃないか――
そんなことを思った天満の表情を察した雛菊は、遠くを見るような目つきで天満を不安にさせた。
「雛ちゃん…?」
『…あっちに行かないといけないのに…行けないの』
あっちってどこ、と言いかけて、身震いをした。
あっちへ行かせないためにはどうすればいいのか――
そんなことを考えて、見守っている朔や雪男たちを不安にさせた。
記憶を無くし、その間に‟闇堕ち”していたことがなかったかのようになったものの、唯一強く思い続けていた雛菊に会わなければという一存で怪我が治るまで昏々と眠り続け、妙法と揚羽の二振りの妖刀がつけた傷口はなかなか塞がらずに今までかかったそうだが――
そんなことが可能なのかと晴明に訊いてみたかったけれど、晴明は気を集中させていてそれを途切れさせるわけにはいかなかった。
「雛ちゃん…びっくりしたよね…。怖かったでしょ…?」
『うん…私…逃げたかったけど身体が動かなくて…』
悲しげに俯いた雛菊の手を握ろうと手を伸ばしたが――その手を握ることは敵わず、雛菊の腕を突き抜けていった。
ああ、本当にもう雛菊は死んでしまったのか――
実感が怒涛のように襲ってきて嗚咽がもれた天満は、片手で口元を押さえてなんとか堪えながら、再び頭を下げて謝った。
「本当にごめんね…僕、きっともっと早く助けに行けたと思うんだ。だけど…」
『ふふ…天満さんは私がお願いしたことをやってくれたんでしょ?着物…干してくれた?』
まるでいつもの会話をしているようで、鼻を啜った天満は頷いて小さく笑った。
「ちゃんと干してきたけど…雛ちゃん、あれは全部女の子用だよ?」
『うん、それでいいの。きっといつか意味が分かるから。きっと天満さんびっくりするよ』
そうやって言葉を濁すけれど、だけどその答えはもう貰えないじゃないか――
そんなことを思った天満の表情を察した雛菊は、遠くを見るような目つきで天満を不安にさせた。
「雛ちゃん…?」
『…あっちに行かないといけないのに…行けないの』
あっちってどこ、と言いかけて、身震いをした。
あっちへ行かせないためにはどうすればいいのか――
そんなことを考えて、見守っている朔や雪男たちを不安にさせた。

