天満つる明けの明星を君に【完】

部屋に入るにあたり、式神の口を借りた晴明から注意点を挙げられた。


「共に逝きたい、などと死者を惑わせるような発言はせぬように。雛菊自身に迷いや未練がある可能性が高く、そなたが引き留めようとすればするほど御霊は穢れてゆく。それこそ天満…そなたとは生まれ変わっても会えぬようになるだろう」


「……はい」


天満はかなり憔悴していたが、朔に支えられてなんとか頷き、同意を得ると式神が襖を開けた。

部屋の四隅には蝋燭が燈っていた。

晴明は部屋の中央に座り、印を結んだまま目を閉じて動かず、これ以上雛菊の魂が穢れないように奮闘していた。


「雛ちゃん…?」


――晴明の傍には、雛菊と赤子の骸が横たわっていた。

思わず目を背けたくなる光景だったが、天満は過呼吸になりそうになるのを堪えながら胸を押さえてよろよろと近付いた。


「雛ちゃん…僕だよ…雛ちゃん…?」


共に部屋に入った朔と雪男はその時――空中に浮遊する仄かな光を見た。

ゆらゆら揺れながら骸の傍に座った天満の近くへ行くと、雛菊の枕元でその光が大きく揺れて――透明な姿だったが、実体化をした。


「雛ちゃん…」


『天満…さん…』


――ああ、今も真名を呼ばれてこんなにも心が喜びに打ち震えるのに。

ぽろりと涙が零れてそれを袖で拭った天満は、無理矢理笑顔を作って震える声で呼びかけた。


「雛ちゃん…痛かったね…怖かったね…間に合わなくて…ごめんね」


『…天満さん…良かった…また会えて…』


姿が透き通っているだけで、いつもの雛菊と何ら変わらない。

何がどうなってこうなってしまったんだろう?

それを訊き出さなければ。


「うん…僕もまた会えて良かった。雛ちゃん…教えてくれる?どうしてこんなことに…?」


――雛菊は自らの骸と赤子を交互に見つめた後、ぽつぽつと語り始めた。

あの一瞬の惨劇を。