天満つる明けの明星を君に【完】

雛菊の骸とふたりきりになった晴明は、式神に用意させた神具を部屋中に飾り付けて、彷徨える雛菊の魂を浄化させようと懸命になっていた。

だが‟闇堕ち”した者の呪いは凄まじく――雛菊自身が昇華しようとしていても、その魂を縛り付けて許さず、晴明の目には雛菊の魂が徐々に暗い色へと変化している様が見て取れた。


「雛菊…そなたは生涯不運だったね。だが来世にはきっとそなたの想像もできぬ幸せが待っているかもしれぬ。それとも…そなた自身にまだ迷いがあるのかい?」


鬼火のような形の雛菊の魂は、ゆらゆら揺れて部屋中を飛び回っていた。

そしてふたりきりになってから一度も言葉を発していなかったのに――晴明の耳に、小さな声が届いた。


『天…満…さん……』


「…やはりそうか。そうだね…死別するには早すぎるからね。そなた自身にも迷いがあるのは当然のこと。だが…」


天満の心が耐えられるだろうか――?

こんな状態になった雛菊と対面させてどうなるか――想像もできない。


「だが雛菊…そなたをこのままにしておいては、その魂が穢れてしまう。それこそ二度と転生できず、二度と天満に会えぬ。それでもいいのかい?」


『……天…満……さん…』


殻を捨てて魂のみとなった雛菊はただただ純粋に天満を欲していて、この先どんな結末になろうとも…ふたりを会わせるより他ないと察した晴明は、印を結んで目を閉じた。


「そなたの願い通り会わせよう。だがどうか天満を連れて行かないでおくれ。その時には…」


――晴明は十二神将を使役している。

彼らの奇跡を以て強制的に雛菊を昇華させることもできるが…全ては天満にかかっている。


「お願いだから…私の孫を連れて行かないでおくれ」


ひ孫となるはずだった小さな赤子の小さすぎる手をそっと握った。

天満が壊れぬよう祈り、式神を部屋から出して天満たちを呼びに行かせた。