天満つる明けの明星を君に【完】

長丁場になる、と覚悟をした。

天満の部屋の引き出しは乱雑に開けられて、晴明から譲り受けた札が散らかっていた。

恐慌状態に陥りながらも助けを求めて白紙の文を寄越してきた天満があまりにも可哀想で、朔は膝を抱えて顔を伏せた。


「…今俺を見るな」


「悪いけど主さまもこっち見んなよ」


――ふたり共にひどい顔をしていて、天満と雛菊が共に暮らしてきた家にはまだ雛菊の魂が在り、晴明の手腕如何では雛菊は転生できなくなってしまう。

天満はきっと、待つはずだ。


銀と若葉の時のように――

かつての初代の時のように――


「父様に文を書かないと…。俺はしばらくここから動けないから」


「俺もここに居たい。屋敷の守り役っていう重要な役目があるけど、でも今は…無理だ」


朔の声が震えていたため、雪男は出入り口から朔の隣に移動して、ぐりぐり頭を撫でた。


「大丈夫だって。晴明はやらなくてもできる男だからさ」


「知ってる。疑ってなんかない」


大量の古来榊(サカキ)や御幣など、揃えられるものは揃えた。

後は晴明が使役している式神が持ってくるとのことで、どの位時間がかかるか全く予想がつかなかった。


「雪男…何が起きたと思う?」


「…呪われたんだろ?俺たちの目を掻い潜って生き抜いて、強い執念を持って雛菊に会いに来た…。雛菊の腹は大きくて、逆上したはずだ。後は…大体想像ができる」


雛菊の腹には爪が刺さったような傷跡があった。

子はその傷によって死んだ可能性があり、雛菊もまた――


「天満は…暴れるだろうか」


「…そうだな。同じ立場だったら主さまはどうする?」


「……何もかも壊して、最後に命を絶つ」


「…そうならないよう俺たちがどうにかしないと。な?」


今度は雪男の前でぽろりと涙が落ちた。

雪男はそれを見ていないふりをして、朔の頭を優しい手つきで撫で続けた。