天満つる明けの明星を君に【完】

天満に抱きしめられている雛菊は、眠っているように見えた。

大量の出血があったことは血まみれの手拭いの数で分かったが、何が死因なのか、この段階で知ることはできず、とにかく天満を雛菊から離さなければと思った朔は、天満の肩に触れた。


「天満…少し俺と話をしよう」


「……」


やはり返事はなく、見開かれた目は全く瞬きをしていなかった。

なんと言葉をかければいいのか分からなくなった朔が言葉を失っていると、晴明は産婆に少し事情を訊いた後、口止めをして帰らせた。


「そろそろ薬が効いてくる。私は天満が眠った後、死因を知るため雛菊の身体を調べるが、いいかな?」


「はい…お願いします」


「…ちゃん…」


「!天満…?」


天満が何か呟いた。

顔を覗き込んだ朔は――天満の目からみるみる涙が溢れ出るのを見て、歯を食いしばって少し肩を揺さぶった。


「天満…こっちで話をしよう。天満――」


「雛ちゃん…雛ちゃん……僕を置いて逝かないで…!」


――天満の身体から強い妖気が吹き出すと、心が壊れる寸前だと判断した晴明は、朔を押し退けて天満の両目を手で塞ぎ、小さな声で術を唱えた。


「すまぬ…しばしの間、眠りなさい」


それでも天満の抵抗は続いたが、強い術の効果が効いたのか――天満の身体から力が抜けて朔が支えた。


「お祖父様…この赤子の命は…」


「…見た所、腹の中ですでに死に至っていたと思われるが…よく見てみないと何とも言えぬ」


「そんな…」


雛菊は、朔にとってもう妹のような存在だった。

ふたりの幸せそうな姿を見て、絶対にふたりの幸せを守ってやろうと思っていたのに。


「天満…」


術と薬の効果で眠ってもなお涙を零す天満を抱きしめた朔は、晴明が雛菊を床に横たえさせたのを見て、悲痛に胸が引き裂かれそうになった。


「雛菊…何故こんなことになったんだ…?何故お前と子が死ななければならなかった?」


原因は庭に転がっている。

遅れてやって来た雪男は、壮絶な光景に言葉を失った。


誰もが言葉を失い、そして必ず原因を突き止めると心に決めて、これ以上天満が傷つかないことを祈り、雛菊と赤子に弔いの言葉をかけ続けた。