その頃朔は、いつものように百鬼夜行に出て討伐を行っていた。
だが自分宛に飛ばされてきた式神がものすごい速さで身体に張り付いてきたため、何事かを思って開いてみると――それは天満からのもので、しかも白紙だったため、すぐに嫌な予感に捉われた天満は、ぬらりひょんに声をかけた。
「天満の元に向かう。いつ戻れるか分からないかもしれないから、お前は父様の元へ行け。その後雪男を鬼陸奥まですぐ来るよう命じろ」
「相分かった」
幽玄町の屋敷へ戻らず、すぐさまその足で向かった朔は、最速で駆ける竜の背に乗って鬼陸奥へ向かった。
弟がやっと掴んだ幸せに何かが起きている――
天満が毎回寄越してくる文は長文で、どうでもいいことから大事なことまで何枚にも渡って書かれていることが多いのだが、今回は白紙だ。
筆を手に取れないほどの何かが起こっている――
すぐにそれが分かった朔は、すぐさま天満の元に駆け付けると、もぬけの殻になったかのようなその姿を見て言葉を失った。
「天満…」
「雛ちゃん…雛ちゃん……」
――家に入るまでの間に、庭で半分にされた駿河の胴体の部分を見つけた。
それで全てを理解した朔は、その急襲によって雛菊の身に異変が起きたことをすぐに察したが――それよりも重大なのは、天満の心身だった。
「雛菊…その腕の赤子は……お前の娘か…」
おくるみに包まれた赤子は明らかに女の子の顔つきで、明らかに息を引き取っている雛菊の身体を抱いたまま動かない天満を見た朔は、身が引き裂かれる思いで天満の肩を抱いた。
「天満…ゆっくりでいいから、何が起きたのか話してくれ」
「……」
目を見開いたまま、動かない。
硬直が始まっていた雛菊の身体から離さなければならず、呼びかけ続けたものの、天満は一言も発さず、なお強く雛菊を抱きしめ続けた。
「朔!」
「お祖父様…」
朔からの要請を受けた雪男が晴明を伴って駆けつけると、晴明はすぐさま雛菊と赤子の死を知って、心が壊れかけている天満の傍に座った。
「お祖父様…天満は…」
「…このままでは危うい。ひとまず意識を奪った方がいいかもしれないね」
お願いします、と懇願した朔の悲壮にまみれた表情を見た晴明は、間髪入れず頷いて、持ち込んで薬箱から催眠作用のある薬草に火をつけると、天満の鼻先でくゆらせた。
「今は眠るがいい…そなたの心が落ち着くまで」
誰もが、そう願った。
だが自分宛に飛ばされてきた式神がものすごい速さで身体に張り付いてきたため、何事かを思って開いてみると――それは天満からのもので、しかも白紙だったため、すぐに嫌な予感に捉われた天満は、ぬらりひょんに声をかけた。
「天満の元に向かう。いつ戻れるか分からないかもしれないから、お前は父様の元へ行け。その後雪男を鬼陸奥まですぐ来るよう命じろ」
「相分かった」
幽玄町の屋敷へ戻らず、すぐさまその足で向かった朔は、最速で駆ける竜の背に乗って鬼陸奥へ向かった。
弟がやっと掴んだ幸せに何かが起きている――
天満が毎回寄越してくる文は長文で、どうでもいいことから大事なことまで何枚にも渡って書かれていることが多いのだが、今回は白紙だ。
筆を手に取れないほどの何かが起こっている――
すぐにそれが分かった朔は、すぐさま天満の元に駆け付けると、もぬけの殻になったかのようなその姿を見て言葉を失った。
「天満…」
「雛ちゃん…雛ちゃん……」
――家に入るまでの間に、庭で半分にされた駿河の胴体の部分を見つけた。
それで全てを理解した朔は、その急襲によって雛菊の身に異変が起きたことをすぐに察したが――それよりも重大なのは、天満の心身だった。
「雛菊…その腕の赤子は……お前の娘か…」
おくるみに包まれた赤子は明らかに女の子の顔つきで、明らかに息を引き取っている雛菊の身体を抱いたまま動かない天満を見た朔は、身が引き裂かれる思いで天満の肩を抱いた。
「天満…ゆっくりでいいから、何が起きたのか話してくれ」
「……」
目を見開いたまま、動かない。
硬直が始まっていた雛菊の身体から離さなければならず、呼びかけ続けたものの、天満は一言も発さず、なお強く雛菊を抱きしめ続けた。
「朔!」
「お祖父様…」
朔からの要請を受けた雪男が晴明を伴って駆けつけると、晴明はすぐさま雛菊と赤子の死を知って、心が壊れかけている天満の傍に座った。
「お祖父様…天満は…」
「…このままでは危うい。ひとまず意識を奪った方がいいかもしれないね」
お願いします、と懇願した朔の悲壮にまみれた表情を見た晴明は、間髪入れず頷いて、持ち込んで薬箱から催眠作用のある薬草に火をつけると、天満の鼻先でくゆらせた。
「今は眠るがいい…そなたの心が落ち着くまで」
誰もが、そう願った。

