天満つる明けの明星を君に【完】

力を失った雛菊の身体はとても重たくて、その重たさに全身が震えた天満は、傍に寝かせた息のない我が子と雛菊を交互に見つめて言葉を失い、ただただ抱きしめ続けた。


――駿河が急襲して数時間の出来事だった。

未だに何故駿河が生きていたのかも分からず、執念のみで生き延び続けて駿河よりも深く自分は雛菊を愛していただろうか、と天秤にかけて、発狂しそうになっていた。


「雛ちゃん…?待ってよ…僕を置いて逝かないで…」


傍の赤子も息はなく――ただとても自分に似ている、と思った。

閉じた目元や唇…女の子は父親に似ると言うけれど、本当にそうなんだな、とどこか冷静な自分も居て、息を引き取った雛菊の重たい身体をずっと抱きしめて、祈り続けていた。


「お願いだ…僕は死んでもいいから、雛ちゃんを生き返らせて…!神様でも仏様でも、なんでもいいからお願いだ…!」


雛菊は、我が子を腕に抱くこともなく息を引き取った。

だが夢の中で逢えたからと言って微笑んだ雛菊は本当に満足げで…

遺された天満はただただ喪失感で心に穴が空いて、喪失感に襲われていた。


「雛ちゃん…雛ちゃん……?寝ているの…?そうだよね…?眠ってるだけなんだよね…?」


「て…天満様…」


産婆の呼びかけも虚しく、天満は我が子を雛菊に抱かせて、雛菊を抱きしめて、呼びかけ続けた。


「雛ちゃん…目が覚めたら笑って…。冗談だよ、って言って…」


―――このままでは正気を失う――

産婆がそう思った時、荒々しく玄関の戸が開く音がした。

その音と共に数人の足音が速足で近付いて来ると、産婆が見たのは――最近起ったという鬼頭家の当主の姿だった。


「ぬ…主さま…」


「天満!」


天満の中は、空っぽになっていた。