天満つる明けの明星を君に【完】

もう産まれ落ちてしまう――

そう分かった時雛菊は天満に絶対伝えなければと思って真っ青な唇を開いた。


「天満さん…ひとつだけ、私と約束をして…」


「待って…待ってよ雛ちゃん…これから約束なんていくつでも…」


「天満さん…私が死んだ後……私を待たないでね」


――言われた意味が分からず、天満は眼球をぶるぶる震わせながら雛菊を決死の思いで見つめた。


「どう…いう…意味…?」


「私が転生するまで待たないでね…。あなたを苦しめたくないの。私がまたあなたの前に現れるまで、どれくらいの時がかかるか分からないから…だからあなたを苦しめたくないの。だから…待たないで。あなたは、あなたを愛してくれる方を…あなたが好きだと思った方と、一緒になってね…」


これは遺言だ。


ようやくこの世でたったひとり、愛せる者と出会えたと思ったのに――

ふうっと目を閉じかけた雛菊の身体を抱きしめて揺さぶった天満は、足元で産婆が虚しく首を振ったのを見た。


「…息がありません。女の子でした」


「そんな…そんな…っ」


「ああ…私の赤ちゃん…夢の中で何度も逢えたからいいの。でも天満さん…あなたは逢えなかったんだよね…ごめんなさい…」


「雛ちゃん…雛ちゃん…っ、言っている意味が分からないよ…っ」


「でもまたあなたの傍に産まれて来るって約束してくれたから…だからちょっだけ、待っていてあげてね。天満さん…私を幸せにしてくれて…ありがとう…」


――天満は産婆から動かない女の赤子を受け取って腕に抱いた。


産声はなく、呼吸もなく――命のない状態で産まれてきた我が子を腕に、天満は溢れ出る涙を止めることができず、ただただ呼びかけ続けた。


「お願いだから…僕を置いて逝かないで…」


「ごめん…なさい…。私を…選んでくれて……ありがとう…。幸せでした…」


それが、最期の言葉だった。